【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜



 ***


 カシャン、という鉄を引きずるような音でシャノンは目を開けた。
 薄暗くて周りがよく確認できないが、ぼんやりと動く二つの影が見えて声をかける。

「ハオ、ヨキ……?」
「あ、シャノン〜!」
「よかった、起きたんだね! どこか痛くない?」
「うん、大丈夫だけど。ここは……わたしたち、どうなって」

 両手は枷が嵌められ後ろで固定され、同じく両足にも枷があった。
 ハオとヨキも同じような状態でいるが、シャノンとは違って生地が厚い華衣が脱がされ、薄い上着と下穿きだけになっていた。

 地下室の牢に閉じ込められているのか、周りに光はほとんどなく、少し遠くの通路に灯される色褪せた照明だけが頼りだった。
 似ている、と反射的に思ってしまう。
 シャノンが数年間閉じ込められていた見世物小屋の雰囲気と、限りなく。

「カーターだよ。アイツが裏切ったの。馬車の中でぼくたちを眠らせて攫ってきたんだ」

 ハオは言いながら何とか枷を外せないかと試している。同じくヨキも地面に打ち付けて壊そうとしているが全くビクともしていなかった。

「……カーターが、どうして」
「それはお嬢さんがよく知ってるだろ? なんせ、クロバナの毒素を浄化できる偉大な聖女様だもんなぁ。そうだろ、カーター!」

 その時、シャノンの声を遮るようにして現れたのは、見覚えのない二十代後半ほどの男だった。その背後には後ろめたそうな表情で立っているカーターの姿がある。

「見世物小屋で、たくさんの貴族連中を浄化しているのを見た。顔も姿もローブを被っていて分からないようにしていたけど、足首に何度も切られた跡が」
「足首、ねぇ」

 男は牢の外からシャノンを見下ろして眺めると、扉の施錠を開けて中に入ってきた。
 容赦なくシャノンとの距離を詰めようとするが、その前に双子がシャノンと男の間に入って接触を阻止する。

「ねえ、おっさん。それ以上、シャノンに近づかないで」
「あんた、もしかして相当のおバカ? こんなことしてヴァレンティーノが黙ってるわけないのに。あはは、早死にしたいんだ」
「……邪魔くせえガキどもだなぁ」

 その途端、男はシャノンの盾になっていたハオとヨキの腹を強く蹴りあげた。
 それから間髪入れずに何度も蹴りを繰り返し、鈍い音が牢の中を反響しては消え、また反響する。

「ルロウ・ヴァレンティーノが目にかける側近だろうとなぁ、所詮はまだガキなんだ。身ぐるみ剥いで武器を取っちまえば何もできねぇだろ」
「……二人に何をするの!!」

 シャノンは声を張り上げる。体を引き摺って倒れ込んだ二人に覆いかぶさると、男をきつく睨みつけた。
 だが、男はお構いなしにシャノンの片足を持ち上げる。

「そうそう、足首の傷だったか。……確かにあるな。まあ、傷なんて確認しなくても、これから実際に浄化させればすぐに分かる」
「……っ!」

 むせ返るような生々しい空気に、お腹がずきずきと痛む。
 男が浮かべた歪な笑みに、シャノンはまたも見世物小屋の記憶が蘇った。

< 100 / 128 >

この作品をシェア

pagetop