【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜



 ***


 ルロウに抱えられ劇場の外に出たシャノンは、周りの景色を目にして首を傾げた。

「ルロウ、あの遠くに見える建物って」
「皇城だ」
「……。それって、皇都にある、お城のことですか?」
「ああ」
「…………ええ!?」

 そこでシャノンは、自分がヴァレンティーノ領ではなく、皇都の外れまで攫われていたことを理解した。
 空に登る月の位置を見るに、現在の時刻は真夜中のようだ。一体連れ去られてからどれだけの時間が経っているんだろうか。

「あまり口を開くな。中が切れてる」
「あ……いたっ」

 ルロウの言葉どおり口内が切れていたようで、口を大きく開こうとするたびに痛みが走った。
 思わず頬を押さえたシャノンを横目に、ルロウは近くの崩れた塀の上に腰を下ろす。シャノンはそのままルロウの膝に座らされた。

「ルロウ、わたし立てるので膝を貸していただかなくても大丈夫です」
「痛むか」

 シャノンの主張は総無視で、ルロウの長い指がシャノンの腫れた頬を優しくつついた。
 わずかな刺激にシャノンの肩がぴくっと跳ねる。


「痛いです。でも、わたしは大丈夫です。それよりハオとヨキのほうが心配です。わたしを庇おうとしてたくさん……」

「あの双子は脆弱ではない。じきにいつも通り騒がしく動き回るだろう。だが、おまえは違う。……弱い、脆い、そこらの餓鬼よりも面倒なほどに」

「ご迷惑を、かけてしまって……すみません」


 月明かりに照らされたルロウの姿が、まるで光のベールをまとったように美しく反射していた。
 それが少し眩く目を細めれば、ルロウの赤い双眸も同じような動きをしてみせる。


「……違う。謝罪を求めているわけではない。おれがおかしくなっただけだ。面倒だが、勝手に手を出されるよりはいい」

「……?」

 揺れる瞳が、なんだか酷く切なげに見えた。

「――シャノン」

 そしてルロウは、確かに告げる。
 あまり本心を見せない彼からの、驚くべき提案が。



「この先、おれの本当の婚約者になるというのは、どうだ」


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