【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
「食えん奴だな」
「あ、ルロウ……」
談話室で行われていたシャノンとダリアンの会話に加わってきたのは、煙管を片手にしたルロウだった。彼の両隣には、元気な様子の双子が立っている。
「ハオ、ヨキ……!」
牢に出されてからずっと二人の心配をしていたシャノンは、すぐさま駆け寄った。
「シャノン〜おはよ」
「昨日は大変だったよねほんと。よく眠れた?」
「眠れたけど、二人は大丈夫なの? 怪我もたくさん残っているのに」
「あーあんなのべつに平気。ちょっと痛かったくらい」
「そうそう〜ヨキたち、あんなの暗黒街じゃ慣れっこだったし〜」
双子はあっけらかんとして笑っている。ルロウから聞いてはいたが、もう二人は気にも留めていないようだ。
「でも……ごめんね。それと、ありがとう。わたしを守ってくれて。すごく心強かった」
心からの感謝を伝えると、双子は揃って照れ隠しの笑みを浮かべていた。
「へへ、だけどシャノンを傷つけるなんて、アイツゆるせないよ。カーターもムカつくけどさ」
「黒明会のやつだから殺せないし〜」
「ぼくたちも、枷を取ってもらったあとにボコボコにしに行けばよかったよね。フェイロウみたいに」
「怪我、痛いでしょう? 二人分ぐらいなら、癒しの力で治せるよ」
「え、いいよそれは。シャノンだって万全じゃないのに」
そんな和気あいあいとする空間に、シャノンは若干気まずい視線を感じて、双子の後ろにいるルロウに目を向ける。
何を考えているのか、彼はお得意の感情の読めない顔でじっとシャノンを見ていた。
しかし、すぐにダリアンのほうに視線を変え、先ほどの話を再開した。
「おれのところにも、わざわざご丁寧に書簡が届いてな。おれが自ら城に向かい、あいつの提案を呑めば、こちらの都合の良いように話を合わせるといっている」
「皇太子のことか」
ルロウが手にした書簡の封の色を見たダリアンは納得した顔で頷いていた。
(皇太子って、この国の……?)
皇太子とは、皇位継承第一位の者の呼称であり、何も問題がなければゆくゆくは皇帝となる人のことだったはず。
(ルロウはそんな人とも、知り合いだったんだ)
密かに目を見張るシャノンを一瞥したルロウは、皇太子という高貴な存在に臆することもなく、驚くほどいつも通りである。
これが裏で「覇王」といわれる家門の次期当主の器なのか、それともたんにルロウの性格の問題なのか……シャノンは後者なのではと内心思った。
ともあれ、個人的に皇太子に呼ばれたということで、ルロウもシャノンと一緒に城へ行くことになった。