【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
32話:謁見
登城命令は原則すぐに向かわなければいけないことになっている。
それなのにシャノンが皇城に着いたのは、正午を過ぎた頃だった。
シャノンたちを乗せた馬車は、大きく重量のありそうな外門を潜り、このさらに先にある正門へと向かっていた。
「まだ正門に着いたわけじゃないのに、人がたくさんいるんですね。ほかにも馬車が走っているし」
窓のカーテンの隙間から様子を窺っていたシャノンが、圧倒されたように呟く。
「そうだな。私たちの登城は前もって城の人間たちに報せていたんだろう。いつもよりも衛兵の数も多い」
「…………」
ヴァレンティーノ家当主であるダリアンは、皇族とそれに連なる傍系一族の毒素を吸収する務めがあるため、事ある毎に城には来ていたようだ。
「ルロウもよくお城には顔を出しているんですか?」
シャノンが尋ねると、煙管を咥えていたルロウは、少し間を開けて口を開いた。
「……正式な手続きを踏み入ったことはない。いちいち正門など通らずに、直接皇太子宮へ向かっていたからな」
「それはつまり、不法侵入」
「こいつは今まで公に姿を見せるのを避けていたから、目立つ正門を通ることは絶対になかったんだ。皇太子の許可があってできることだが、それでも見つかれば即地下牢行きだろう」
当主として君臨するダリアンと違い、ルロウは領地に滞在するのがほとんどで、自分が次期当主だと周りに名乗ることもなかった。
ルロウは以前、必要なときがくれば社交界にも出席するし、顔を晒すこともあると言っていたが……もしかして、とシャノンは察した。
(今回の登城は、ルロウにとって初めてヴァレンティーノ家次期当主、ルロウ・ヴァレンティーノとして顔を出すということなんだ……)
ことの重要性を改めて認識したシャノンは、申し訳ない気持ちで隣に座るルロウを盗み見た。ルロウはその視線の意味を理解したのか、ふっと不敵に笑い「また顔がおかしなことになっているぞ」と言ってのけた。
やがて馬車が正門を抜け皇城内に停まると、ヴァレンティーノの家紋が描かれる馬車を目にした衛兵たちの顔つきが、一気に緊張感あるものに変わった。