【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
最終話:暁光の世から消えて死ね
翌日。
シャノンは全身の骨が軋む痛みに耐えかね、目を開けた。
「……っ、これで何回目!?」
まるで欠点が見つからないルロウの寝顔。
絶対にわざとだろう。
シャノンがいくら拒んでも、当たり前のようにルロウは同じ寝台に潜り込んで寝ているのだ。
とはいえ、大体が寝こけたシャノンを寝台に運び終え、そのまま眠るという流れなのだが。
「ルロウ、またわたしのところで寝て……あれ、そういえば……」
シャノンはもう慣れたと言わんばかりの手つきでルロウを揺り起こす。しかし、昨夜のことを思い出してしまい、その場で頭を抱えた。
(わたし、また眠っちゃったんだ……! ああもう、ルロウの前で意識を落とすの、これで何回目? それよりも夜会の場で眠ってしまうなんてっ)
ぐるぐると頭の中に響くシャノンの悔いた叫び。
おそらく刻印の解除が影響しているのだろう。それでも出来れば避けたかった失態に、シャノンは深くため息を吐いた。
「……っ、いたた」
額を毛布にすり付け唸っていたシャノンは、動くたびに痛みを生じる体に違和感を覚えた。
そういえば、どうして髪がこんなに長いのだろう。
昨日までは腰あたりで揺れていたはずの毛先が、なぜか座り込んだシャノンの脚に触れている。
「え、え、ええ?」
視線を下降させ、さらに驚愕。
シャノンの真っ平らだった胸に確かな膨らみがあったからだ。
「さっきから、一人でなにを遊んでいる」
「ルロウ……!」
いつの間にか起きていたルロウが、寝転がったままシャノンを見上げていた。
シャノンはよく分からない居心地の悪さに困惑し、ルロウにおそるおそる尋ねた。
「わたし……なにか、変わっていますか?」
「……」
ルロウの顔に、悪戯な笑みが浮かぶ。
「一晩で餓鬼から、女に変わったぐらいか」
「……!!」
その後、シャノンは痛む体に鞭を打ち、化粧台の前に立った。
鏡の中で息を呑んでいるのは、シャノン自身で間違いない。
だけど昨日とは明らかに違っている。
暗く灰みのある茶色の髪は腰より長く伸び、硝子玉のように丸々としていたオリーブの瞳は、ゆるやかで落ち着きある印象に変わっている。
ふわっと柔らかな輪郭からは幼さが消え、一つ一つの顔のパーツがはっきりとしていた。
目線も違う。体つきも女性らしい曲線が、いつ着替えさせられたのか定かではない寝衣の上からでも分かった。