【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
ハオがシャノンを下から覗くように観察すると、赤を主色とした衣服の裾と袖が蝶の羽ばたきのようにふわりと動いた。
初めて目にする不思議な装いに、シャノンは釘付けになる。可愛らしいハオの顔も相まって思わず「きれい……」と呟くと、ハオはぱちぱちと瞬きをした。
「フェイロウ、ぼくのことキレイだって! ぼくこの子すき! フェイロウの婚約者として認めてもいいよ!」
ツンとした態度から一変し、機嫌を良くしてにこにこ笑うハオに、シャノンはかすかな違和感を見つけた。
(ぼく? そういえば、声もちょっと低いような……)
しかし、そんな女性も世の中にはいるだろうと思っていれば。
「ハオ、あまり馴れ馴れしく引っ付くんじゃない。そんななりでもお前は男だろう。ルロウの婚約者だっていう女に抱きつくやつがあるか」
(男の子……)
双子は兄弟だった。
シャノンは内心びっくりして会話を聞く。
「当主サマ、頭がかたいよ。フェイロウはそんなこと気にしないもん」
「そうそう、だよね〜フェイロウ〜」
双子がくるりと振り向くと、ルロウは寝台を離れて服を着込んでいるところだった。
双子と同じように、見慣れない形をした衣服。
(男の人が、スカート?)
シャツやジャケットなどではない。ドレスのように裾は長いがあまり膨らみはなく、下穿きもしっかり着ている。スカートというわけでもないようだ。
(教国の装いとも違うから、西華国の服かも)
それは双子と同じように袖が広がりのある作りをしており、鮮やかで調和がとれた染色の生地と、金糸で縫い込まれた刺繍は見事なものだった。
「冷めた食事を食う気にはなれん。話の続きは食堂で構わないだろう、義父殿」
「フェイロウがいいって。当主サマ、シャノン、早くおいでよ」
「ゴハンゴハン〜」
ダリアンの了承を聞かないまま、ルロウは気の赴くままに寝室を出ていく。そんなルロウと、彼の両端を雛鳥のようについて歩く双子の背をシャノンは呆然と目にしていた。
「あれが、ルロウだ」
義理の息子の婚約者になることを提案したのは言わずもがなダリアンだ。しかし、ルロウに関することは今日までほとんど伝えられていなかった。
だけど、シャノンにはその理由が何となくわかった気がする。
説明を受けるよりも、実際に見て確かめたほうが「ルロウ」という人物像が掴めたような気がした。
(……ルロウ様)
一緒の空間に少しいただけでそう思えてしまえるほどに、ルロウはどこか危うく、浮世離れした人間だった。