【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
8話:呼び方
「最近、ルロウや双子たちと仲良くやれているそうだな」
「当主様!」
ルロウの婚約者としてヴァレンティーノ家に世話になること、ひと月が過ぎた。
あのティータイムの日から、ルロウは気まぐれにシャノンに菓子を与えてやるようになった。手渡しで口に入れるのも少なくはなく、そんなルロウがなにを考えているのか誰もわからない。
ルロウとシャノンの話はヴァレンティーノの屋敷中に伝わっており、もちろん当主であるダリアンにも筒抜けだった。
「ここには気性が荒く乱暴な言い草のヤツらばかりだが、うまくやれそうか?」
「はい! みなさん、とても優しくしてくれます。ルロウ様の部下の人たちも、怖くないです。ヴァレンティーノ家の人なので、もっと殺伐としているのかと思っていたんですけど」
皆もシャノンの存在に慣れてきたのだろう。この前は「小さい子がもぐもぐ食べている姿は癒されるなぁ」と温かい目を向けられた。まるで孫を見るような扱いに、彼らは自分の年齢を知っているのだろうかと疑問になった。
(でも、受け入れられているみたいで、うれしい)
可愛らしい笑顔を浮かべるシャノンに、ダリアンは少々微妙そうな面持ちだった。
「……優しい、か」
「当主様?」
「いや、まあいいだろう。メイドから報告は受けているが、体調もかなり回復したようだな?」
「はい。歩行も前より難しくなくなりました。コツをつかめたみたいで」
そう言って何歩か歩いて見せたシャノンに、ダリアンは優しげに笑った。
それをくすぐったく感じるのは、これまで気遣われる経験をあまりしてこなかったからだろうか。
ダリアンを見ながら、父親とはこんな感じなのかな、とシャノンは考える。
ヴァレンティーノの当主相手にそんな想像をしてしまうなんて、絶対に本人には言えないけれど。