【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜



 ***



 運良く保護されたシャノンには、見世物小屋のことで一つ心残りがあった。それは、同じく囚われていた自分よりも小さな子供たちのこと。
 ダリアンからヴァレンティーノ領内の施設に送ったという話は聞かされていたが、ずっと気にしていたのである。


「おでかけおでかけ〜!」

「ちょっとヨキ、あんまりシャノンから離れちゃダメだよ。ぼくたち護衛なんだから」

「わかってるって〜! 変なヤツがシャノンに触ろうとしたら、ヨキがぜーんぶ追っ払ってあげる〜」


 無邪気に鼻歌を鳴らすヨキは、シャノンとハオの少し前を軽快に歩いていた。


 ヴァレンティーノ領の右端にある地区『キーリク』。

 領内一の人口を誇る商業中心地には、多くの人が行き交っている。

 ヴァレンティーノの屋敷からほどよい距離にあり、他領からの観光者向けの娯楽施設も多い。

 シャノンが気にしていた子供たちが身を置く施設も、このキーリク内にあり、シャノンは子供たちに会うためにダリアンの許可を得てこの街にやって来ていた。

 そして――


「でも、フェイロウがわざわざこんな時間に街に来るなんて珍しいね。ぼくたちは嬉しいけど」
「……たまにはな」


 煙管を片手に後方を悠々と闊歩するルロウは、ハオの言葉のあとにそう短く言った。そしてどこか楽しそうな笑みで続ける。
 

「もちろん、当主殿のご命令も忘れてはいない」
「シャノンを施設まで連れて行って、無事に屋敷に帰らせる、でしょ。大丈夫、ぼくとヨキがいるんだから」
「そうだよ〜」


 自信満々にうなずく双子。
 ハオの腰の両端には短めのナイフが隠れており、ヨキの背には丸みを帯びた刃が光る斧のような武器が収まっていた。

 双子はこれからキーリクの施設に訪ねるシャノンの護衛役だ。また、ルロウも同行者として一緒に来ている。


「ルロウ様……わざわざお時間をとらせてしまって、すみません」


 いくらシャノンが婚約者といえど、それはほとんど名ばかりのようなもの。だというのに次期当主のルロウの手を煩わせている現状に、本当に大丈夫なのかな、という不安が出てくる。

「構わん。そろそろ、ネズミ捕りの具合が気になっていたところだ」
「ネズミ?」
「…………。ところで、」


 一体なんのことだろうと不思議そうにするシャノンと、無言のまま感情をもたない瞳で見返すルロウ。

 シャノンの疑問が解消されることはなく、ルロウはほんのり首を傾けながら次の話を始めた。


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