【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜




「ご、ごめ、なさっ」
「大丈夫? どこか怪我はしていない?」

 シャノンは急いで駆け寄り、少年を立たせようと手を伸ばす。
 体中汚れてはいるが怪我はしていないみたいだ。

 シャノンは安堵するものの、差し出した手を、少年はいつまでも取ることはない。そこでようやくシャノンは気がついた。少年の唇と手の爪が黒く染まっていることに。

「あなた、もしかして」
「――過剰有毒者、だな」

 後ろから窺っていたルロウが言い当てると、少年はビクッと震えた。ルロウの雰囲気に圧倒されたのか、少年は動くこともできず固まってしまう。
 ルロウは赤々と輝く瞳を眇め、シャノンをさがらせるようにして前に出た。

「動くな」

 短く告げると、ルロウは広がる袖をたくしあげ、大きな掌が少年の頭を覆うように鷲掴んだ。
 小さな悲鳴をあげる少年を無視して、ルロウはしばらくその状態を保ち、一定の時間が過ぎると何事もなく手を離した。

(唇も、爪の色も、変わってる……!)

 目を見開くシャノンを見て、少年は自分の身に何が起こったのかを理解したらしい。爪の先を食い入るように見つめ、驚愕の面持ちをルロウに向けた。

「双子が戻ってきたようだな」

 ルロウはすでに少年のことが眼中になく、シャノンに声をかけてその場を離れようとしていた。
 追いかける前にもう一度少年の様子を確認する。地面に座り込んだままの少年の横には、彼の手にあった小袋が置かれていた。

「ルロウ、待ってください。毒素を……吸収したんですよね?」
「それが、どうかしたか」
「なんとも、ないですか……?」
「ああ、もちろんだ」
「……」

 闇使いによる毒素の吸収。それをシャノンは初めて間近で目にした。

 ルロウはなんともない様子でいるが、そんなはずはない。

 闇使いは毒素を体内に閉じ込めることができ、その分身体には大なり小なり負担がかかってしまう。
 毒素を過剰に吸い込んでしまう過剰有毒者の毒素なら、なおさら吸収後に平然としていられないはずなのに――


(……笑ってる)

 ルロウの満悦した横顔が、ひどく不気味に感じた。
 なぜこんなにも爛々と瞳が鋭く輝いているのか、シャノンには訳がわからない。

< 43 / 128 >

この作品をシェア

pagetop