【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜




 シャノンは聖女だった。

 ユストピア大陸の南方を統治するクア教国で生まれ、両親はおらず赤子の頃から孤児院で暮らしていたが、聖女の資質を見出され教会の子として育てられた。

 始祖大聖女――聖なる光の使徒である聖女は、世の不浄を払うために誕生したとされる。シャノンも教会の教えに従い「癒しの力」の修得に励んだ。

 怪我や心に潜む燻りを清めることができる聖女は、希少な教国の宝。
 例に漏れず、思想に染ったシャノンも、その身を生涯捧げるはずだった。


 あるときシャノンは、自分と少し年の離れた姐聖女に危害を加えた罪で拘束された。
 危害を加えたというのはすべて濡れ衣で、姐聖女が秘密裏に司教とまぐわっていたところを目撃してしまい、その口止めのために捕まったのである。

 その頃のシャノンは、姐聖女と司教の行為の意味を知らないくらいに、無知な子供だった。


 子供ゆえにどこかで何気なく口を滑られ、誰かに伝わることを恐れたのだろう。姐聖女と司教が口裏を合わせて教会に働きかけた結果、シャノンは道徳性に問題があると判断され、無実を訴える猶予もなく教会を追放されてしまった。


 教国で罪を犯した者は、地方の収容所に送られる。
 シャノンはそこへ連れていかれる道中に野盗に襲われた。すぐにわかった。その野盗たちは、シャノンを生かしておくことに不安を抱いた姐聖女と司教が雇ったものだと。


 野盗によって馬車の扉が開けられた瞬間、シャノンは近くの運河に飛び降りることで命からがら逃げ出すことができた。

 流れ着いた川で偶然にもシャノンを引き上げてくれたのは、人身売買、そして違法に見世物小屋の営む男。
 教国からは逃げ出せた。でも、シャノンの不自由はその先しばらく続くことになる。


 シャノンに癒しの力があると知るや否や、男はシャノンを見世物小屋に立たせるようになった。

 傷を癒し、精神を癒すシャノンの力に多くの人々は魅力された。

 その裏で違法な金の動きがあろうとも、シャノンにはどうすることもできなかった。


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