【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜



 ゆったりと、独特な自分のペースで話を進める。
 こんなときでもルロウの話し方は変わらない。

「っ、華衣の、服……ほ、本当にお前が――」
「その反応は、全く新鮮味もない」
「な、あ……ぎやぁあああ!」

 男の体に添えられていたルロウの足が、無慈悲に傷を抉る。
 それでもルロウの表情は虚空を見つめるように冷めたものだった。

「おまえは、もう助からないだろう。だが、おれもおまえたちが言うところの悪魔? ではない」
「ぐっ、う……なにが、言いたい」
「一瞬であの世へ渡るか、時間をかけてあの世へ渡るか。選ばせてやろうと言っている」

 ルロウは、そっと囁く。

「ネズミの親玉は、誰だ?」
「……」

 口を割らない男に、ルロウは「ふーん」と目を細める。
 それから思い出したような素振りを見せた。

「ああ、自分の女を数日も放置することは、あまり薦めない」
「なにを、言って……」
「キーリクの5番裏通り。おまえの女は、おまえよりも自分の身が可愛かったようだぞ?」

 その発言を皮切りに、男は瞬時に青ざめ、視線が左右にぶれ始める。
 
「なんで、知って……ど、どうしてバレて……おい、おい! あいつをどうした!? どうしたんだよ!?!?」
「――ああ、どうだったか。おまえのことなどどうでもいいと、撓垂れ掛かってきたところまでは覚えているが」
「あ、あいつは、生きて……るのか」

 ルロウは「どうしてそんなことを聞く?」という顔で、首を軽く傾けた。
 足蹴にされた男の目は血走り、殺気を孕んでいる。


「いまごろ魔物の餌になっているだろう。ネズミを手引きする反逆性を持ち合わせていたにしては、思った以上につまらん女だった」
「てめぇ……イカれてるやがる。ふざけるなよ、帝国の駄犬がぁ!」


 悪びれもないルロウの態度に、男は声を荒らげる。
 だが、ルロウはそれ以上男に目を向けることはなかった。


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