【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
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壁に手を添えながら、なんとか階段を登りきる。
もう何度も来たことがある階なのに、夜の闇に包まれているというだけでなんだか別の場所に見えた。
(……。戻ろう)
嫌な感じがしたからというだけで来てしまったけれど、移動している間にそんな気配は薄れてしまった。
保護されている身で夜間に彷徨くのもよろしくないので、シャノンが早々に踵を返そうとしたときである。
「――あれ、シャノン様、ですよね?」
とん、と肩を軽く叩かれ、驚いたシャノンが振り返るとそこには歳若い少年が立っていた。
身に覚えがない。しかし、相手は自分を知っているようだ。
「あ、急にすみません! 自分、カーターといいます。ルロウ様の部下です」
「カーターさん」
確かに服装はヴァレンティーノ家の臣下らしく黒づくめではある。
「えっ、カーターでいいですいいです! こんなペーペーのオレをさん付けしないでください!」
気さくな印象のカーターは、恐れ多いと首を横に何度も振った。
あわあわと感情丸出しの大袈裟な反応に思わずクスッとしてしまう。
話によると、カーターは夜間組で動き回っていることが多かったため、これまでシャノンに会うことがなかったのだという。
シャノンも夜は部屋から出ることがなかったので、鉢合わせることもなかったのだ。
「ところで、こんなところでどうかしました? ええと、脚が悪いんですよね? 暗い場所で一人でいるなんて危ないっすよ」
カーターはちらりとシャノンの左側に目を向けながら心配そうに眉を下げた。