【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
16話:偶像視のおわり
ドクンと、心臓が重々しく脈打った。
脳内で何度も繰り返し響くダリアンの発言に気をとられ、気張っていた足の力が抜けていってしまう。
立て直そうとしてみたところで、無駄な足掻きに終わった。
「わっ!」
シャノンは勢いよく転倒する。ほぼ同時に、少し隙間ができていたルロウの部屋の扉が完全に開け放たれた。
「シャノン……」
声が上から降ってきて、全身が強ばってしまう。
聞き耳を立てていたことの罪深さと、それがバレてしまった緊迫感に苛まれながら、シャノンは目線を上げていく。
関心の薄い表情のルロウと、どうしてここにと言いたげなダリアンがこちらを見下ろしていた。
「すみません……わたし、なんだか嫌な感じがして、ここまで来てしまって」
曖昧な説明しかできない自分を叱咤したくて仕方がなかったが、二人の反応はシャノンの言葉を疑ってはいないようだった。
「……はあ。いつまでそうしているんだ。ほら、立ちなさい」
「は、すっかり保護者だな」
ダリアンが床に蹲るシャノンに手を貸すと、すぐにルロウが揶揄いを入れてくる。
立たされたシャノンは、改めてルロウに目を向けた。ぱちぱちと瞬きを挟んで、そのなんとも言いがたい違和感に顔色を変える。
「ルロウ……?」
なぜだろう。佇まいや浮かべる表情はいつも通りであるはずなのに、なにかが違う。どうしても引っかかる。
服装が西華国の寝衣で、初めて見るからだろうか。日中身にまとっている華衣よりも簡素な彩りだが、その分滑らかな光沢があり触れると気持ちよさそうだ。
(違う、服装、じゃない。この感じ、ああ、そうだ――教会の、)
「ルロウ、苦しいですか……?」
「――――」
シャノンの心配そうな声に、動揺を見せたことがないルロウの瞳が、ほんのわずかに反応した。