【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
「どうして、そこまで……」
「民の救済者である聖女とは思えぬ発言だ。毒素で苦しむ者を、少しでも減らそうとした結果だろう?」
「……」
うそだ。本心ではないことぐらいシャノンにもわかる。
無言のままじっと見つめる。大きな瞳を開いて、真っ直ぐと。
本意を知るまで動かない。言わずとも感じられる意思の固さに、ルロウは興が削がれた様子で呟いた。
「死んだように生き続けるほどの意味が、ないからだ」
「意味がない……?」
次から次へ、疑問が出てくる。
どうしてそう思うのか、なにがルロウをそう思わせているのか。
シャノンはハッとした。
自分にもあったじゃないか。
いっそこのまま死ねたらどれだけいいだろうと、死に縋ってしまったことが。
もしも、ルロウの中にシャノンと同じような心境があるのだとしたら。
(……どうしてわたし、気づこうとしなかったの。ルロウは、はじめてわたしを救ってくれた人で、まぶしくて。勝手に――偶・像・していたんだ)
確信に変わった、その瞬間だった。
激痛が、刻印から伝わってきたのは。
「いっ……!」
チリチリとした熱が首裏から感じる。
次第に全身へ痛みを伴い始めると、シャノンの口端から耐え忍んで出た呻き声があがった。
(なに、これ。頭がくらくらする)
「シャノン、どうした!?」
「だ、大丈夫です」
シャノンの上体が頼りなく揺れると、ダリアンは支えに入ろうとして手を伸ばしたが、やんわりと断った。
痛み苦しむ姿のシャノンを、ルロウも訝しげに見つめていた。
首裏の刻印を手で押え、額に脂汗を滲ませながら、シャノンはルロウを目視する。
ぱちりと、乾いた瞳を十分に潤わせて。
目の前のその人を、深く認識するように。
(ああ、ほら。やっぱり違う)
「ルロウは、神様でも、聖者様でもなくて、みんなと同じ、人、なのに」
「…………は?」
素っ頓狂な声は、ルロウから出たものだった。
同じく少し後ろに控えていたダリアンからも「何を言っているんだ」という視線が送られてくる。
しかし、シャノンは至って真面目だった。
――大丈夫、祈りは必ず、いつか救いが、信じないと、祈るの、救いが、救い、救いをください、たすけて、おねがい、もう痛いのはいや、くるしい、痛い、痛い、苦しい、たすけて、救いを、救いを、救いを、救いを、救いを。
――神、様?
あの日、あのとき。
心身ともに限界を迎えたシャノンは、救いを求めていた。
大聖女に祈ったけれど、何も変わらなかった。
救ってくれたのは、闇の中から颯爽と現れた一人の青年。
信仰を重んじる環境下に置かれたシャノンに思考は、その瞬間、ルロウを、これまで絶対的な存在だと信じてきた大聖女と同じような存在だと、そう捉えてしまったのだ。
そして首裏にある刻印の激痛と共に、何重にも編み込まれたようにあった枷が解かれ、本来のシャノンを取り戻しはじめていた。
凝り固まった思考が晴れるように、シャノンの瞳に映る彼は、自分と変わらないひとりの人間になった。