【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
聖女の素質を認められた者には、聖女になるための通過儀礼がある。
それは、心身ともにまっさらな状態にすること。
外界のすべてを遮断して、空っぽになるところからはじまる。
四方八方が白壁に包まれる白亜教会の最奥部で、平均して数年ほどの期間を過ごす。
己が真っ白な状態になるまで、居続ける。
内容は公表されていないが、それが聖女になるうえで大切なことだという。
聖女に強い意思は不必要である。
大きく感情を揺さぶられるのも良しとしない。感情的になれば、数々の不浄を前にする過程で、いつ心身に影響を及ぼすかわからないからだ。
――聖女とはなにか、民を救済する光となること。
――聖女とはなにか、始祖大聖女の意を継ぐ者のこと。
――聖女とはなにか………………
――聖女とはなにか…………
――聖女とはなにか……
万人を癒すための慈悲の心は、意図的に植え付けられる。
それは能動的に発生するものではなく、教えによって当たり前の振る舞いと相成る。
首裏の印は、最奥部に足を踏み入れた日に刻印される。
そして、晴れて通過儀礼を終えて出ることを許された者は、最奥部でのすべてを綺麗に忘れるようになっていた。
こうして、教国に聖女は誕生していく。
それが――聖女になる、ということだった。
人は神にはなれないが、人に幻想を抱くことはたやすい。
現にシャノンは似たような勘違いをしていたし、その認識が異質だとは思わなかった。
彼を――ルロウを前にして恐れ多いと感じたことは多々あったが、それは単純な恐怖とは違っている。
時おり小動物のように萎縮するシャノンの姿も、周囲には次期ヴァレンティーノ当主に対して感じる当たり前の感情だと思われていたようだが、決して怖がってはいなかった。
まさかルロウも、大聖女へ向ける気持ちでシャノンが身構えていたとは、思いもしなかっただろう。