【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
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目覚めたとき、ひどく懐かしい感覚がシャノンの中にあった。
小さな頃の記憶。
孤児院で過ごしていた頃のことを思い出したのだ。
裕福ではなかったけれど、みんなとても温かかった。
いつから、思い出さなくなったのだろう。
なぜ、それ以外のことを思い出せなくなってしまったのだろう。
あの時の子猫は、大きくなっただろうか。
これは確かにあった、シャノンの思い出だったのに。
翌朝、シャノンの部屋には朝早くからダリアンの姿があった。
「――ルロウを、人だと認識するようになったと言っていたな。一晩置いてみたが、些か理解し難いぞ」
ダリアンは眉間を押さえて嘆息した。
昨晩、シャノンの身には明らかになにかあった。
でなければ、ルロウに向かって「神でも聖者でもなく人だったんだ」などと意味不明な発言はしないはずだ。
「結局、あのあとルロウに部屋を追い出されたわけだが……」
悩ましげなダリアンに、シャノンは落ち着いて口を開く。
いまの自分に言えることを、頭の中で整理しながら。
「わたしも、確実なことは言えないんですが。教国民や聖女は、大聖女という絶対的な主軸がなくてはいけない国民性なんです」
「ああ、こちらとしては扱いづらい習性だ」
「……そして、あのときのわたしは、その縋るものを失っていました。どんなに救いを願っても、無意味だったから」
「……」
「わたしの中にあった大聖女という生きる指針は潰えてしまったんです。そんなとき、ルロウがすべてを壊してくれた。わたしは彼に救われたんだと、強く思いました」
認識が移った、とは少し違うけれど。
似たような感情を抱いたのは確かである。
ルロウに恩恵を重ねてしまったのは、シャノンが信仰深い国の聖女だったからという理由も大きい。信じられなくなった信仰を、べつの存在で補おうとしていたのだ。
そして、どういうわけか昨晩をきっかけに、その意識すらも綺麗になくなっていた。
「あの、マリーさんとサーラさんにはお願いできなかったんですけど……刻印を、確認してもらいたくて」
「見せてみろ」
シャノンは髪を片側に流して、首裏が見えるようにする。
そして背後に回ったダリアンは、聖女の印である刻印を確かめて目を見張った。