【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
「どうなっていますか?」
「少し焼けて、薄くなっている……? 初めに見たときよりも、かなりだ」
「そう、なんですね」
「どういうことだ?」
「うーん……」
昨晩、ジリジリと焼けるような激痛があった。
昨日に限らず、思い出せば小さな違和感は何度かあったように思う。
ただ、気にもとめない痺れや熱さだったので、痛みに耐性がついていたシャノンには気づくことができなかった。
「この刻印、彫り物に似てはいるが……それだけではなく、魔力が込められているようだ。術を施した形跡のようなものもある。お前の奇妙な変化とも関係がありそうだな」
「あるかもしれないです。わたしもまだよくわかっていないんですけど。刻印も、薄まるという話は聞いたことありませんでしたし」
「そもそも、これにはどんな意味があるんだ」
聖女に関することのほとんどが教国の機密情報になっている。
ダリアンもあまり期待はせずダメ元で聞いたのだが、あっさりと返答がくる。
「大聖女の額にあったとされる印なんです。聖女になる通過儀礼で教会の奥にある建物に集められて、そこで刻印されて……あれ?」
「どうした」
「いえ、あの……刻印されたあとのことが、思い出せなくて」
「なに?」
「すべて記憶にないわけじゃないんです。でも、うまく思い出せない。わたし、教会でどんなふうに過ごしていたんだろう……」
ダリアンは顔を顰めて、ある可能性を口にした。
「洗脳に近いものを施されていた、ということはないか」
「洗脳……?」
「私が目にしたことのある教国の聖女の様子を思い返してみても、その線が濃厚な気がするが」
「この刻印が、洗脳のためのものということですか」
ダリアンは「まだ確定では無い」と付け足すものの、そう考えれば色々と合点がいく。
だが、それはクア教国の内部事情に深く関わることに違いない。ゆえにダリアンは、難しい表情で考え込んでしまう。
「洗脳かぁ」
新たに発覚した可能性に、シャノンはぼんやりと呟いた。
不可解ではあるが、あまり深刻には捉えていないのだろう。
「お前……やはり昨日の今日でどこか変わったな」
こうして考えにふけるシャノンの姿は、まだ数ヶ月の付き合いであるダリアンが見ても、最初の頃より人間味に溢れていた。