【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜


 ***


「え、ルロウがいない?」
「うん。起こしに行ったときにはもういなかったよ」
「夜中にどっか出かけちゃったみたい〜」

 思い立ってすぐに三階の食堂にやってきたシャノンは、朝食を摂っていた双子の言葉に愕然とした。

(あんなにひどい状態で、どこに行ったの?)

 表情を曇らせたシャノンに、双子は顔を見合せた。

「ねえ、シャノン。昨日フェイロウの部屋にいたでしょ」
「どうしてわかるの?」
「部屋ににおいが残ってたから。フェイロウと、当主サマ、シャノン」
「あと香水くさい女たち〜」

 双子は相当鼻が利くのか、昨晩の面々を言い当てた。
 だが、女性が数人いたというのは知らない。

「……きっと当主サマが部屋に来たから、女どもは帰らされたんだね。前にもそういうことあったから。それで、フェイロウは自分から出かけて行った感じかな」
「そんなことまでわかるなんて、ハオはすごいね」
「で、なにがあったの? シャノンも部屋にいたんでしょ」

 ハオは空席となっているルロウの定位置に目を向けて、ぽつりと言った。
 いつものようなふざけ混じりのものではなく、少し深刻そうな声音。シャノンは昨晩のことを双子に話すことにした。ダリアンから口止めはされていないし、シャノンを聖女だと知る二人なら彼の中にある禍々しい不浄のことも隠せず言えると思ったからだ。


「――それで、当主様と一緒に追い出されたの」
 
 ひとまず刻印の異変のことは端に置いて、シャノンが把握している限りのルロウの体内の状態を双子に説明した。
 話が進むにつれて双子の朝食を摂る手が止まり、話を終える頃には完全に動きを止めていた。

「そんなに、ひどいの?」
「うん……あそこまでの人は、教会で公務をしていたときも見たことがなかったよ」
「……シャノンなら、治せる?」

 いつもなら気の抜けたように語尾を伸ばしているヨキも、このときばかりは余裕ない様子だった。

「癒しの力をルロウに使うことができれば、最悪な状態からは抜け出せると思っているんだけど……」

 また、体内の魔力が枯渇するほどの無理をしなければ、シャノンの体力も持つはずだ。
 本来なら一気に毒素を浄化するのが理想だが、そんなことをすれば今度こそシャノンの命が尽きてしまう。

「ハオ、ヨキ。お願い、協力してほしいの」
「ぼくたちが」
「きょーりょく?」

 ルロウの命令は絶対の双子は、彼の意思を曲げるようなことはしない。
 しかし今回は、双子にも思うことがあったのだろう。
 シャノンの言葉に真剣な面持ちで耳を傾けていた。

 これも、聖女の性さがなのだろうか。もうシャノンを歯牙にもかけない彼のことを、心配して気にしてしまうのは。


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