【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
2話:聖女とヴァレンティーノ家当主の提案
嗅いだことのないあまやかな香り。
身を包むふかふかの感触。
シャノンはゆっくりと瞼を持ち上げた。
数回の瞬き、オリーブ色の瞳がふるりと揺れる。
「……もう二十日以上眠りっぱなしだったが、いい頃合いに起きたな」
わずかな物音が聞こえ、気だるい身体をゆっくりと起こす。
(これ、ベッドだ)
シャノンは自分が寝かせられていた事実を確認しながら、視線を寝台横に移す。
そこには二十代後半と思わしき男が悠々とした居住まいでいた。
銀の髪と赤い目。見覚えがあると思ったら、男は見世物小屋に押し入ってきた集団の中で一番「偉い人のオーラ」が出ていた人物である。
どうやら優雅に紅茶を嗜んでいたらしい。
片手にティーカップを持ち、唇から離す仕草は高貴な気品すら感じられる。
まだ頭が回っていないシャノンは、どう声をかけるべきか悩んだ。
「目覚めて早々だが、ひとつ確認がある。お前は、聖女だな?」
「っ!」
確認というには生ぬるい、確信のある鋭い眼差し。
シャノンは反射的に被っていた毛布を手繰り寄せる。