【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
――夜。
シャノンはルロウの部屋の前にいた。
双子に協力してもらい、彼の帰宅を知らせてもらうことができたので、すぐに三階にやってきたのである。
シャノンはもう一度ルロウと話して、会話の中から糸口を探れないかと考えた。
「……ルロウ。わたし、シャノンです。昨日は突然、ごめんなさい。少し、話したいことがあってきました」
コンコン、とノックをする。
けれど、向こうから声が返ってくることはない。
もう眠ってしまったのだろうか。それとも、シャノンだとわかっているから反応しないのかもしれない。
(ダメ元で来てみたけれど、簡単にはいかなそう……)
そう思いながらも、最後にもう一度ノックをしたときだった。
固く閉ざされていた扉が、キィ、と静かな音を立てて開いた。
「ルロウ――」
隙間から窺えた赤い目。薄暗い部屋の中から妙に輝いて見えた色に気を取られていれば、次の瞬間には腕を掴まれ引きずり込まれていた。
***
何が起こったのか考える暇もなかった。
腕を凄まじい勢いで引かれ、気がついたときには嗅ぎ慣れた香が充満するルロウの部屋の中にいたのだ。
「ルロウ、ルロウ……!」
シャノンの腕を掴んでいるのは、間違いなくルロウだ。
しかし、彼は何度呼んでもこちらを振り返ることなく、ただ無言のままシャノンを奥へと連れていく。
部屋の奥。不意に視界に入ったのは――いつか見た大きな寝台だった。
(どういうこと? どうして、なにも話さないの? ルロウ、どうしたの?)
頭の中で混乱が渦を巻き、どくどくと心臓の音が早くなる。
「わっ……!」
そんな、まさか、と。
ルロウと再会した日の寝台の光景が頭に蘇ったと同時に、シャノンの足は床から離れ、視界がぐるりと反転した。
衝撃はわずかなものだった。
寝台に倒れ込んだのが良かったのだろう。痛みはなにもなかったが、体はちっとも動かすことができない。
「ル、ロウ?」
頼れる灯りは、淡く発光した窓際の照明だけ。
(顔が、近すぎる)
いやそれよりも、体がありえないほど密着している状態に、ようやくシャノンは自分が押し倒されていることに気づいた。