【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
「鳥の刷り込みを知っているか」
唐突な問いに、シャノンは頷いた。
「雛鳥が孵化した直後に、初めて出会った動くものを追いかけたり、母親だと思い込むことですよね……?」
「ああ、そうだ。刻印付けともいわれるが、愛着行動ないし追尾行動をするようになる現象だな」
「あの、それって……」
まさかあいつがな、と言いたげに、ダリアンは視線をシャノンに寄越した。
「ルロウが、それと似た状態になってるってことだ」
「…………? ……? どうしてそんなことに?」
理由が分からず頭にいくつもの疑問が浮かぶ。あのルロウに雛鳥と同じようなすり込み現象が起こっているとは考えにくい。というか、信じられない気持ちが勝っていた。
「すり込みって言葉が悪いかもしれないが……そうだな、お前の存在はあいつの人生において、無視できないほどに強い衝撃だったってことだろう」
シャノンが大聖女以外で初めて誰かを――ルロウを眩しく特別に思ったように、ルロウも同じ気持ちをシャノンに抱いたということだろうか。
すり込みと聞いて難しく考えすぎてしまったが、要するに心を開いてきてくれている、ということなら納得がいった。
「しかし、あれだな。私としては口だけの約束ではなく、この際あいつと正式に婚約関係を――」
「少しびっくりしましたけど、そういうことなら最近のルロウの様子も分かった気がします。つまりわたしのことを、ハオやヨキと同じようにそばにいても不快にならない存在だと、思ってくれているってことですよね」
「……ん?」
もう殺さない、と言ってくれたのも、そういうことなのだろう。
だが、安心して甘えてばかりいてはだめだ。
(無理のない範囲で少しずつでも自力で生活できるように、歩く練習と、魔力の回復を頑張ろう)
シャノンはうんうんと頷き、そんなシャノンの様子にダリアンは微妙な顔をしていた。