【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜


 ***



「……っ!」

 目を開けたシャノンは絶句した。
 なぜか目と鼻の先にルロウの顔があって、静かな寝息を立てているからである。

(ど、どういうこと? ここ、ルロウの部屋っ?)

 鼻に薫るルロウの香の匂い。
 シャノンは視線をキョロキョロと動かし、そしてルロウの寝台で横になっていることに気づいた。毛布は被っておらず、ルロウもシャノンもただ寝転がっている状態なのだが、それにしても意味が分からない。

(落ち着いて……たしか、今日は朝から三階に行って、ハオとヨキと一緒に朝食を摂っていたはず)

 朝食の席にルロウの姿はなく、双子に聞くと「違反者を始末しに行ったよ」と返答がきた。シャノンがいた見世物小屋のように、近頃は違法な商売をしている人間の拠点が見つかったと報告が上がってくるので、ルロウが直々に潰しに回っているのだという。

 それから三人で朝食を食べ終えたあと、お腹を休ませながら他愛ない会話をしていた。話の中でシャノンがどれだけふらつかずに歩行ができるようになったのか、という話題になり、双子にその場で少し歩いて見せることになった。

 シャノンの歩行練習は順調で、杖に頼ることもあるがだいぶ躓くことなく歩けるようになっていた。
 双子も大袈裟に「すごいすごい!」と褒めてくれて、そろそろ自分の部屋に戻ろうかと考えていたときである。

 ちょうど任務から帰ってきたルロウと入口の前でばったり鉢合わせた。
 そして、ルロウに「おかえりなさい」と言ったところまでは覚えている。だが、以降の記憶がなかった。

(なんだか眠気があったような気がしたけど、記憶返りのせいで意識が飛んで、倒れたんだ……)

 シャノンはガバッと起き上がる。
 やはりここはルロウの部屋で、寝台だ。柔らかすぎて体が傾くのを必死に耐えながら、とりあえずここを降りようともぞもぞ動く。


「――おい」

 その声が響いた瞬間、背中に視線が注がれるのを感じた。
 シャノンは動きを止め、ギギギ、と不気味な人形のように振り返った。

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