【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
「ル、ロウ……あの、どうしてわたし、ここに?」
「……」
「ルロウ?」
「…………ネズミ狩りから戻って来れば、おまえが突然倒れた。ただ眠っているようだったのでな、ここまで運んでやった」
「それは、ありがとうございます。でも、なぜわたしはルロウと一緒に寝ていたのでしょうか」
ルロウは何を言っているんだと言うように、わずかに眉を顰める。機嫌が悪いというよりは、たんに寝起きで眠そうだった。
「……ここはおれの部屋で、これはおれの寝台だ。おれがここで眠るのは当然だと思うが?」
なんだか頭が痛くなってくる。
シャノンだってそこまで厳格な女性像があるわけではない。むしろ男女の関係に関しては人よりも疎いだろう。
それでも、結婚をしていない二人が同じ場所で眠るのはあまり褒められたことではないと知っている。
そして、ルロウの貞操観念が緩いということも、何となくだがシャノンは察していた。
(迷惑をかけたのはわたしなんだから、ここは早く退散して、次から気をつけよう……)
気を失ってまで記憶返りが起こるのには驚いたが、無限に記憶があるわけではないので、これも徐々に収まってくるだろう。
「お休みのところお邪魔してしまってすみません。すぐに出ていきますので」
記憶返りが落ち着くまでは、十分に注意して行動しようと決めて、シャノンは再び寝台から降りるべくもぞもぞ動く。
「シャノン」
「わっ」
大きな寝台を移動し、ようやく床が見えたところで――シャノンは再度、寝台の中心に戻されてしまった。
……ルロウが、シャノンの腰に腕を回して引っ張り込んだからである。一気に二人の距離が近くなり、背中にはルロウの体温を感じた。
いきなり何をするのかと動揺の声をあげる前に、シャノンの頭の上あたりでルロウの声が響いた。
「おまえ、一体どのような夢を見ていた」
「……え、ゆ、夢ですか」
「おれの服を掴んで離さず、震えて泣くほどの夢だったか」
ゆったりとした調子で並べられる言葉。尋ねられてから、シャノンは自分の目元や頬に涙の乾きが残っていることに気がつく。
自分が服を掴んで離さなかったから、ルロウは仕方なく隣で眠ったのだろうか。それなら申し訳ないことをしてしまったと、シャノンの顔が少しだけ俯いた。