【完結】「暁光の世から消えて死ね」 〜教会を追放された見世物小屋の聖女は、イカれた次期覇王の暫定婚約者になる。(※手のひら返しで執心されています)〜
28話:帰り道の襲撃
月の巡りも終わりに差し掛かり、シャノンはこの日商業中心地『キーリク』にある施設にお邪魔していた。
今回はルロウ不在で双子が同行してくれている。馬車はいつぞやの夜に出会ったカーターが操縦してくれた。
相変わらず子供たちは皆元気に過ごしており、二度目の再会の時間はあっという間に過ぎていった。
「フェイロウが暗くなる前に帰ってこいって言ってたから、そろそろ帰らないと〜」
「なんかフェイロウ、シャノンのことだと少し面倒くさいね。まあ、それもある意味いいことだけど」
馬車に戻るまでの道を三人仲良く並んで歩く。
左右に立ったハオとヨキが歩きやすいように支えてくれているのでかなり助かっていた。
「ねえ、シャノンは今のフェイロウのことどう思ってるの〜?」
「どう……?」
「ヨキ、はっきり言わないと分からないよ。フェイロウのこと男としてちゃんと見てるのかってコト!」
「ええ……」
婚約者紛いの気まぐれごっこ対応、興味即失速の無関心、そして今現在の執拗な構いっぷり。ルロウに関しては変化が激しくて男だからどうとか深く考えたこともない。
双子もシャノンがルロウの婚約者としているのは、ヴァレンティーノ家に留まるための方便だと知っているはずなのに、最近は変に浮ついている。
「だってねだってね〜フェイロウがオンナの体調を気遣ってるところなんて、見たことなかったよ〜?」
「それに、シャノンを一日見かけない日は機嫌が悪そうだし。表には出さないけど気になって仕方ないって感じ」
「たぶんそういうのって、わたしに言わないほうがいいんじゃ?」
シャノンはシャノンで色恋沙汰に全くの経験も免疫もないので、その事実を聞いたとしてもどう答えればいいのか躊躇う。
「ぼくが思うに、フェイロウは相当――」
「あ、皆さんお疲れ様です!」
ハオの言葉が途中で切れて、着いたばかりの馬車の停留所には、馭者係のカーターが扉を開けて待ってくれていた。
シャノンはお礼を言って中に乗り込む。双子は反対側に腰掛け、ハオが壁をコンコンと叩くと、馬車は屋敷へ向かって走り出した。
異変を感じたのは、ヴァレンティーノ邸まで続いている薄暗い森の舗装道を進んでいるときだった。
馬の嘶きとともに馬車がピタッと動きを止めたのである。
しかし、馭者を務めるカーターからは何の声もかからない。森の木々を揺らす風の音だけが耳に入ってきて、言いようのない不気味さが漂い始めた。
「カーター!」
一度、ハオが大きく名前を呼ぶ。
それでも返答は一切ない。段々と双子の表情に警戒が生まれ、二人が所持していた武器に手をかけた瞬間――目にも留まらぬ素早さで、窓から何かが投げ込まれた。
「ヨキ! シャノンを外……に……」
ハオの指示は一足遅く、馬車内は投げ込まれた物体によって煙が立ち始めていた。
火種のようなものはなく、ただもくもくと視界を白い煙が埋めつくしていく。
同時に、とんでもない眠気に襲われた。