白い嘘と黒い真実
親父が自殺した現場は、今でも鮮明によく覚えている。
あの人も椎名さんのように、明るく純粋で真っ直ぐで人を疑う事が嫌いだった。
小さな工務店を小学校からの幼馴染と一緒に切り盛りしていて、決して裕福ではないけど、それなりに楽しく暮らしていたのに……。
その生活が180度変わったのは、全て融資の話がきっかけだった。
親父の中で会社繁栄の為、新たな事業展開を企てていたようで、それを幼馴染に相談したら知り合いの銀行員を紹介してくれた。
幸いにも何とか審査が通り、無事契約を結んだものの、待てど暮らせどお金が入ってくる事はなく、期日を過ぎても何の音沙汰もなかった。
事業はもうとっくに進んでいるので、不審に思った親父は銀行に問い合わせたら、既に入金は済んでいるとのこと。
そして、そこで気付いたことがある。
銀行に問い合わせる一週間前から幼馴染は田舎に住む家族の具合が悪いからといって、暫く出社して来なかった。
そこで、ある日ピンときた親父は幼馴染の自宅を訪れると既にもぬけの殻状態で、その時初めてお金を持ち逃げされた事に気付いたのだ。
そもそも銀行とのやり取りを、知り合いだからと言って全て幼馴染に託したのが悪い。
少しでも自分が介入すれば異変に気付けた筈なのに。
確かに、幼馴染のおじさんは優しくて、温厚で、昔から俺の面倒をよく見てくれて、家族ぐるみの付き合いだったから、まさかそんな人が騙すなんて、その時は誰も信じられなかった。
結局、親父一人だけでは新事業も上手くいかず、多額の借金だけが残り、窮地に追いやられた結果自殺という形でお金を工面する手段を選んだ。
その第一発見者は学校から帰ってきた俺で、子供ながらに首吊り自殺の現場はあまりにも衝撃的で悲惨なものだった。
しかも、その次の日は親父と二人で遊園地に行く約束をしていて、ずっと前から楽しみにしていたのに、その約束はこんな形で破られてしまった……。
それからPTSDにかかり、目を瞑っても人の姿ではなくなった親父の顔が脳裏に浮かび続け、長い間眠れない夜を過ごす。
保険金は無事おりたものの、担保で全てを持って行かれた故に生活は苦しく、昼夜働き詰めの毎日で母親も心身共に衰弱しきっていた。
それから少し落ち着いた頃に、母親の実家である新潟へと一時的に引越し、そこから家族は何とか持ち直すことが出来たのでまだ良かったけど、一気に不幸のどん底へと突き落とした親父を、俺は最後まで許せなかった。
だから、俺と同じような人間を増やしたくなくて、警察官という道を選んだ。
筆記は楽勝で、面接では表面上立派なことを言えば周りの人間は皆頷いてくれる。
裏ではこんな捻じ曲がった考え方をしているというのに。
こうして、何年目かの警察人生を迎え、希望していた二課の道に歩むことが出来、今日も詐欺被害者を心の中で嘲笑っては捜査に励む。
そんな醜く捻くれた俺の本性を知れば彼女はきっと幻滅するかもしれないけど、別にどうでもいい。
……それなのに。
何故かそれを拒む自分がいる。
彼女に全てを知られたくなくて、必死で隠そうとするこの気持ちは一体何なのか。
あれ程軽蔑していたくせに、矛盾するこの反発心が自分でもよく分からない。
信じることに喜びを感じる彼女の屈託のない笑顔が、失望へと変わることを想像すると何だか恐くなってくる。
まるで、父親を失ったあの日のように……。
あの人も椎名さんのように、明るく純粋で真っ直ぐで人を疑う事が嫌いだった。
小さな工務店を小学校からの幼馴染と一緒に切り盛りしていて、決して裕福ではないけど、それなりに楽しく暮らしていたのに……。
その生活が180度変わったのは、全て融資の話がきっかけだった。
親父の中で会社繁栄の為、新たな事業展開を企てていたようで、それを幼馴染に相談したら知り合いの銀行員を紹介してくれた。
幸いにも何とか審査が通り、無事契約を結んだものの、待てど暮らせどお金が入ってくる事はなく、期日を過ぎても何の音沙汰もなかった。
事業はもうとっくに進んでいるので、不審に思った親父は銀行に問い合わせたら、既に入金は済んでいるとのこと。
そして、そこで気付いたことがある。
銀行に問い合わせる一週間前から幼馴染は田舎に住む家族の具合が悪いからといって、暫く出社して来なかった。
そこで、ある日ピンときた親父は幼馴染の自宅を訪れると既にもぬけの殻状態で、その時初めてお金を持ち逃げされた事に気付いたのだ。
そもそも銀行とのやり取りを、知り合いだからと言って全て幼馴染に託したのが悪い。
少しでも自分が介入すれば異変に気付けた筈なのに。
確かに、幼馴染のおじさんは優しくて、温厚で、昔から俺の面倒をよく見てくれて、家族ぐるみの付き合いだったから、まさかそんな人が騙すなんて、その時は誰も信じられなかった。
結局、親父一人だけでは新事業も上手くいかず、多額の借金だけが残り、窮地に追いやられた結果自殺という形でお金を工面する手段を選んだ。
その第一発見者は学校から帰ってきた俺で、子供ながらに首吊り自殺の現場はあまりにも衝撃的で悲惨なものだった。
しかも、その次の日は親父と二人で遊園地に行く約束をしていて、ずっと前から楽しみにしていたのに、その約束はこんな形で破られてしまった……。
それからPTSDにかかり、目を瞑っても人の姿ではなくなった親父の顔が脳裏に浮かび続け、長い間眠れない夜を過ごす。
保険金は無事おりたものの、担保で全てを持って行かれた故に生活は苦しく、昼夜働き詰めの毎日で母親も心身共に衰弱しきっていた。
それから少し落ち着いた頃に、母親の実家である新潟へと一時的に引越し、そこから家族は何とか持ち直すことが出来たのでまだ良かったけど、一気に不幸のどん底へと突き落とした親父を、俺は最後まで許せなかった。
だから、俺と同じような人間を増やしたくなくて、警察官という道を選んだ。
筆記は楽勝で、面接では表面上立派なことを言えば周りの人間は皆頷いてくれる。
裏ではこんな捻じ曲がった考え方をしているというのに。
こうして、何年目かの警察人生を迎え、希望していた二課の道に歩むことが出来、今日も詐欺被害者を心の中で嘲笑っては捜査に励む。
そんな醜く捻くれた俺の本性を知れば彼女はきっと幻滅するかもしれないけど、別にどうでもいい。
……それなのに。
何故かそれを拒む自分がいる。
彼女に全てを知られたくなくて、必死で隠そうとするこの気持ちは一体何なのか。
あれ程軽蔑していたくせに、矛盾するこの反発心が自分でもよく分からない。
信じることに喜びを感じる彼女の屈託のない笑顔が、失望へと変わることを想像すると何だか恐くなってくる。
まるで、父親を失ったあの日のように……。