白い嘘と黒い真実
それからガサが終わり、被疑者の取り調べをしてから供述調書をまとめていると一日はあっという間に過ぎ去る。
けど、割と円滑に業務が進んだので、あと少しで今日はもう上がれると思う。
それと、神谷組の案件は、あの女の情報提供が事実だと確認出来れば本部の四課が指揮をとる方向となり、そこから本格的に捜査が始まる。
その前段で、まずは最初の内偵班に入るために直談判していきたいところではあるけど……。
「澤村さん!」
どうやって上手く話を持っていこうか思考を巡らせながらロビーを歩いていると、背後から知った声が聞こえ、俺はその場で立ち止まり振り返る。
すると、そこには椎名さんと黒川さんと、もう一人知らない若い男が隣に立っていた。
「今被害届を出してきました。今日も会社の前にあの男が居たので。直ぐ逃げてしまいましたが……」
そう不安気な表情で教えてくれた彼女の話に、未だ収まらないストーカー行為に憤りを感じ、思わず眉間に皺が寄る。
「そうなんですね。……すみません、こちらでも調べてみましたが、結局分からず仕舞いでして」
ここまでしているのに、執念深く付き纏う男の目的は一体何なのか。
結局真相を解明することが出来ず、怒りと共に湧いてくる申し訳なさに俺は頭を軽く下げる。
「いえ、どんでもないです!寧ろ色々して下さってありがとうございます。届出をした時もその時間帯はパトロールを強化するって言ってくれたので、ちょっと安心しました」
それはこちらを配慮しての台詞なのか。
いつもとは違う若干影かかった笑顔を見せてきたので、その姿が余計心苦しくなる。
「ちなみに隣の方は?」
そして、先程からずっと気掛かりなこの男の存在。
終始俺らのやり取りを、張り付いたような表情でじっと見つめてくる男の目に何だか不快感を覚え、つい軽く睨み付けてしまった。
「あ……。えと……この前話した紗耶の彼氏の高坂部長です。ストーカー対策で色々協力して頂いてて」
なるほど。
こいつが例の……。
昨日のこともあってか。気不味い様子で紹介する彼女の思惑が手に取るように伝わり、とりあえず無表情を保ちながら、俺はもう一度高坂という男に視線を向ける。