白い嘘と黒い真実
「……確か、臓器と言っていました。うちの会社がこれまで扱ったことのないものなので、よく覚えています」

てっきり、まただんまりを決め込むかと思いきや、意外にもすんなりと答えてくれた事に一瞬意表を付かれたが、やはり自分の見解は全て正しかったと知り、俺は小さく息を吐いた。

「澤村さん、高坂部長は何か犯罪を犯しているんですか?捕まってしまうんですか!?」

その時、突然豹変した彼女の態度に暫しの間呆気に取られる。

「それはまだ分かりません。ただ、暴力団と絡む人間は大概何かあります」

しかし、ここは冷静に対応しようと。一般論を突きつけてから興奮する彼女に対して俺は静かに視線を向けた。

「私は高坂部長がそんなことをするような人には見えません。そうじゃないと思いたいんです。それに、紗耶の恋人がそんな悪人だなんて信じたくありません。だから私がそれを証明してみせます。なので、お願いですから彼を捜査するのは待ってください!」

…………ん?
ちょっと待て。何だか話が変な方向に向かっているような。

つい先程まで意気消沈していたはずなのに、今では捲し立てるように暴走し始める彼女の支離滅裂な言動に、今度は言葉を失う。

「いや。それはあなたがどうこう出来る話ではないですし、そもそもストーカーの件もありますし、これ以上余計な事に足を踏み込んだら本当に椎名さんの身に危険が及びますよ」

しかし、直さま我に返ると、判断力に欠ける彼女の言動と身勝手さに段々と苛立ちを覚え、つい声が低くなってしまう。

普段はこういう時でも感情的にならず、淡々とこなしているのに、相手が椎名さんだからだろうか。柄にもなくムキになっていく自分がいる。

「分かってます。けど、例え可能性が低くても信じたいんです。紗耶は私と同じ目には遭わないって」

そんな俺の忠告は全く響いていないどころか、かなり甘い見解にイライラはどんどん募っていく。


信じられない。信じたい。
もう、わけが分からない。
そんな戯言は聞きたくない。うんざりだ。
希望を抱いたところで、結局その分余計に闇へと堕ちていくのは目に見えているのに。
ここまで頑なで諦めの悪さは、もはや父親以上だな。



「……あ、あの。お待たせしました。ヒレカツ定食とパスタセットです……」

すると、白熱する俺達の隣で、何やらとても気まずそうに料理を運んできた店員。
こんな人が密集する中でつい身元がバレるような会話をしてしまったことを今更ながら反省し、俺は咳払いをして、一先ずこの話はここで中断することにした。
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