白い嘘と黒い真実
「あ。澤村さん、見てください。今夜は綺麗な満月ですね」
すると、こちらの気持ちなんて露知らず。
夜空に輝く月を嬉しそうに指差す彼女の呑気な姿に拍子抜けしてしまい、小さく肩を落とすと、俺も同じように空を見上げる。
天体観察はそこまで興味ないけど、どちらかと言えば眩く主張する月よりも、小さな輝きを織りなす星空の方が好きだ。
なので、満月の空はそんな星光がかき消されてしまうから、そこまで感動はしない。
そんな俺と椎名さんはつくづく真逆なタイプだというのを改めて実感し、思わず乾いた笑みが溢れる。
けど、今はそんな違いが何だか心地よく感じるのは、この冷たくも暖かく感じる夜風のせいだからなのか。
心の中でそんな戸惑いを抱きながら、俺は隣で微笑む彼女の横顔を密かに覗き見したのだった。