白い嘘と黒い真実
「…………なんで、付き合わないのよ」
すると、突然消え入りそうな声でポツリと呟いた紗耶の一言に、手の動きがぴたりと止まる。
「真子、澤村さんのこと好きなんでしょ?せっかく今がチャンスなのに、もっとアピールすれば良いじゃん!」
何やら今度はとても不機嫌そうな面持ちで詰め寄ってくる沙耶の急変した態度に一瞬たじろいでしまったけど、傷を更にえぐってくるような物言いに私も思わず不服そうな目で紗耶を見返す。
「し、したよ!でも澤村さんに軽く拒否られたっていうか……。やっぱりどうしたって私は彼にとって恋愛対象にはなれないんだよ!」
悪気はないのは分かっている。
全ては私を想って言ってることもよく分かるし、私達のこの微妙な関係性は、側からみれば苛立ちを覚えてしまう気持ちもよく分かる。
全部分かっているけど、これ以上どう踏み込んでいけばいいのか路頭に迷ってしまった私にとってこの言葉はただ苦痛でしかなく、ついムキになって八つ当たりをしてしまう。
「…………あ、ごめん紗耶。ちょっと最近色々と上手くいかなくて言い方キツくなちゃった」
それに気付いた私は、ここまで気に掛けてくれた彼女に対して何とも醜い態度をとってしまったことに罪悪感を抱き、頭を軽く下げる。
「いや……。私も今真子大変なのに、ちょっと無神経だった。ごめんね」
そんな私の謝罪を紗耶も申し訳なさそうな表情で受け止めてくれて、暫しの間この空間に気まずい空気が流れた。
「そういえばさ。もうすぐ社レクじゃん。真子は何の担当になったの?」
けど、明るい表情で直ぐに話題を切り替えてくれた沙耶のお陰で私の心持ちも少しだけ軽くなり、自然な笑顔を彼女に見せる。
「私は調理班。お肉沢山焼くって言ってたから、もう完全に匂いが服に染み付いちゃうよねー」
そして、差し迫る土曜開催予定のバーベキュー大会が楽しみではありつつも、大人数なのでかなりの重労働になりそうな託された自分の仕事に少しの憂鬱感を抱いてしまう。
「それなら私後片付け班だから手伝うよ。人数も多いし、そこまで大変じゃないみたいだし」
「いいよ!それよりも紗耶は高坂部長と一緒にいて。こういうイベント事って周りも浮かれてるから少しはいちゃついても案外バレないかもよ?」
これまでのこともあり、あまり高坂部長の話題には触れたくないけど、彼と一緒にいる紗耶は本当に幸せそうなので、きっとこのイベントは心から楽しみにしていたと思う。
なので、そんな時間を邪魔してはいけないと、私は全力で首を横に振った。
「……あ。う、うん、そうだね。ありがとう真子。それじゃあお言葉に甘えてそうするよ」
しかし、思っていたよりあまり良い反応ではなく、何処か引き攣った笑顔を見た瞬間、胸騒ぎがした私は昨日のことを聞き出そうと口を開きかけたが、思い直してすぐに閉じる。
もし、嫌な予感が的中していたとしたら、ここで私が探りを入れてしまうと余計に怪しまれそうな気がする。
やましい事なんて何一つしていないのに、高坂部長の意識がこちらに向いている以上、私の行動一つ一つが彼女を傷付けてしまいそうで怖い。
紗耶の為にと躍起になっているのに、それが裏目に出てしまったら元もこうもないので、ここは慎重にしようと私はこれ以上追求することはやめた。
本当に、何でこうなってしまったのだろう。
少し前までは元気がなければ直ぐに声を掛けたのに、今はそれが出来ないなんて。
私はただ、紗耶に笑っていて欲しいだけなのに。
この気持ちが上手く伝わらないもどかしさと悔しさに、つい拳に力が入ってしまう。
この憤りは一体誰にぶつければ良いのか。
高坂部長?自分?それともストーカー犯?
どれも当てはまりそうで、でも何処か違うような。
とりあえず、このまま深く考えても堂々巡りになるだけなので、私は頭を切り替えて、いつものたわいもない会話をしながら自分のデスクへと向かったのだった。
すると、突然消え入りそうな声でポツリと呟いた紗耶の一言に、手の動きがぴたりと止まる。
「真子、澤村さんのこと好きなんでしょ?せっかく今がチャンスなのに、もっとアピールすれば良いじゃん!」
何やら今度はとても不機嫌そうな面持ちで詰め寄ってくる沙耶の急変した態度に一瞬たじろいでしまったけど、傷を更にえぐってくるような物言いに私も思わず不服そうな目で紗耶を見返す。
「し、したよ!でも澤村さんに軽く拒否られたっていうか……。やっぱりどうしたって私は彼にとって恋愛対象にはなれないんだよ!」
悪気はないのは分かっている。
全ては私を想って言ってることもよく分かるし、私達のこの微妙な関係性は、側からみれば苛立ちを覚えてしまう気持ちもよく分かる。
全部分かっているけど、これ以上どう踏み込んでいけばいいのか路頭に迷ってしまった私にとってこの言葉はただ苦痛でしかなく、ついムキになって八つ当たりをしてしまう。
「…………あ、ごめん紗耶。ちょっと最近色々と上手くいかなくて言い方キツくなちゃった」
それに気付いた私は、ここまで気に掛けてくれた彼女に対して何とも醜い態度をとってしまったことに罪悪感を抱き、頭を軽く下げる。
「いや……。私も今真子大変なのに、ちょっと無神経だった。ごめんね」
そんな私の謝罪を紗耶も申し訳なさそうな表情で受け止めてくれて、暫しの間この空間に気まずい空気が流れた。
「そういえばさ。もうすぐ社レクじゃん。真子は何の担当になったの?」
けど、明るい表情で直ぐに話題を切り替えてくれた沙耶のお陰で私の心持ちも少しだけ軽くなり、自然な笑顔を彼女に見せる。
「私は調理班。お肉沢山焼くって言ってたから、もう完全に匂いが服に染み付いちゃうよねー」
そして、差し迫る土曜開催予定のバーベキュー大会が楽しみではありつつも、大人数なのでかなりの重労働になりそうな託された自分の仕事に少しの憂鬱感を抱いてしまう。
「それなら私後片付け班だから手伝うよ。人数も多いし、そこまで大変じゃないみたいだし」
「いいよ!それよりも紗耶は高坂部長と一緒にいて。こういうイベント事って周りも浮かれてるから少しはいちゃついても案外バレないかもよ?」
これまでのこともあり、あまり高坂部長の話題には触れたくないけど、彼と一緒にいる紗耶は本当に幸せそうなので、きっとこのイベントは心から楽しみにしていたと思う。
なので、そんな時間を邪魔してはいけないと、私は全力で首を横に振った。
「……あ。う、うん、そうだね。ありがとう真子。それじゃあお言葉に甘えてそうするよ」
しかし、思っていたよりあまり良い反応ではなく、何処か引き攣った笑顔を見た瞬間、胸騒ぎがした私は昨日のことを聞き出そうと口を開きかけたが、思い直してすぐに閉じる。
もし、嫌な予感が的中していたとしたら、ここで私が探りを入れてしまうと余計に怪しまれそうな気がする。
やましい事なんて何一つしていないのに、高坂部長の意識がこちらに向いている以上、私の行動一つ一つが彼女を傷付けてしまいそうで怖い。
紗耶の為にと躍起になっているのに、それが裏目に出てしまったら元もこうもないので、ここは慎重にしようと私はこれ以上追求することはやめた。
本当に、何でこうなってしまったのだろう。
少し前までは元気がなければ直ぐに声を掛けたのに、今はそれが出来ないなんて。
私はただ、紗耶に笑っていて欲しいだけなのに。
この気持ちが上手く伝わらないもどかしさと悔しさに、つい拳に力が入ってしまう。
この憤りは一体誰にぶつければ良いのか。
高坂部長?自分?それともストーカー犯?
どれも当てはまりそうで、でも何処か違うような。
とりあえず、このまま深く考えても堂々巡りになるだけなので、私は頭を切り替えて、いつものたわいもない会話をしながら自分のデスクへと向かったのだった。