白い嘘と黒い真実

__業務終了後。



「ねえ、真子。この後暇?近くにラクレットチーズ専門店が出来たみたいなんだけど、行ってみない?」


今日は紗耶も定時で仕事が終わり、私達は更衣室で着替えをしていると、突然のお誘いに思わず動揺してしまう。

「そうなんだ。超行ってみたいけど、ごめんね。今日は先約があって……」

そういう話はいつも前もって提案されるのに、何故か今日に限って急に話を持ち出してくるなんて、あまりにもタイミングが悪すぎる。

行きたい気持ちは山々だけど、高坂部長に話をつける為には涙を飲んで諦めるしかないのと、再び襲ってくる多大な罪悪感に、またもや胸が痛みだしてきた。

「そうだよね。私も急過ぎてごめん。今度大丈夫な日があったら教えて」

しかし、紗耶は気にする事なく笑顔で受け止めてくれたので、内心ホッとした自分が最低だとつくづく思う。


それから私達は更衣室を後にして会社の入り口前で別れると、私は曲がり角を曲がってからその場で立ち止まり、紗耶が居なくなるまでじっと息を潜めた。

よりにもよって高坂部長が指定してきたお店は紗耶の帰り方向にあるので、改めて分が悪いことに思わず深い溜息が漏れる。

これでは本当に浮気をしているみたいで、こんな事はもうこの一回限りにして欲しい。

そう心から願いを込め、私は紗耶の姿が見えなくなったのを確認すると、来た道を引き返して約束したカフェへと足を運んだ。
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