白い嘘と黒い真実
「……でも、何で私なんですか?紗耶じゃダメなんですか?」
暫くしてからようやく気持ちが落ち着き始めたところで、私は改めて消化しきれない疑問を彼に投げてみる。
ここまで好意を寄せて貰っているのは純粋に有難いと思うけど、美人で器量も良くて大人な紗耶に優っている所なんて何も思い付かない。
だから、彼女と同じように完璧な高坂部長が一体私の何にここまで惹かれているのか理由をどうしても知りたくて、高鳴る鼓動を抑えながら彼の返答をじっと待った。
「そうだなー。例えば、素直なところとか?椎名さんって感情が表に出やすいから側から見てて何考えてるか直ぐ分かるよ。それが凄く可愛くて。それに優しいし、礼儀正しいし、真面目だし。あと、笑った顔が好きだなー。見てるだけで癒されて一日の疲れがそれだけで吹っ飛ぶ。だから、出来ることなら俺の隣でずっとその顔を見てていたいし、それと……」
「も、もういいです!十分伝わりましたから!」
これ以上聞くと恥ずかしさで死んでしまいそうなので、私は尚も続こうとする高坂部長の惚気話を強制的に遮断させる為、慌てて両手を前に差し出した。
「あはは。そいういう所も好きだよ。本当に椎名さんって可愛い人だよね」
それなのに、更に追い打ちをかけるように再び高坂部長から告白をされてしまい、頭が混乱してきた私はこれ以上彼と目を合わせることが出来ず、全身に熱を帯びた状態で言葉を詰まらせてしまう。
「紗耶のことは今でも好きだよ。彼女を嫌いになる理由なんてどこにもないから。けど、それ以上に俺は君を好きになってしまったんだ。でも、椎名さんには彼氏がいるし、そんな感情を持ってはいけないと自制してきたつもりだったけど……やっぱり無理だったみたい」
そして、自傷気味に笑って答えてくれた高坂部長の言葉が私の心に深く響いてきて、思わず視線を彼の方へと戻す。
確かに、好きな気持ちはどうすることも出来ない。
私だって、この気持ちを澤村さんに受け入れられなかったとしても、やっぱりまだ彼のことを諦めきれない。
今だって思い出すだけでも胸が締め付けられて、少し触れるだけで“好き”がいっぱい溢れ出してきて、もう止められない。
その想いは私も痛い程良く分かるから、これ以上紗耶のことを話に出すのはやめた方がいい気がして、開きかけた口を直ぐに閉じた。
「これからは紗耶と少し距離を置こうと思う。この状態のまま彼女と付き合うのも申し訳ないし、紗耶は俺との結婚を本気で考えているみたいだから尚更慎重になってもらわないと。彼女を不幸にさせるわけにはいかないでしょ?」
それから、穏やかな表情ではあるも、何処か苦しげな眼差しで打ち明けてくれた紗耶に対する配慮に、私は胸を打たれた。
高坂部長も彼女のことを大切に考えてくれているのだと改めて知ることが出来、嬉しい反面やっぱり残念で。何とも言えない複雑な心境に思わず拳を強く握ってしまう。
私がいなければ、紗耶は何の弊害もなく高坂部長とこのまま幸せな結婚を迎えていたのかもしれない。
そして、お互い大切に思いやって、誰もが羨むような素敵な夫婦になれて、温かい家庭を作れたのかもしれないのに。
それよりも、これから紗耶はどうなってしまうのだろうか。
あれ程高坂部長のことを好きでいるのに。
側で支えたいのに、自分を追い込んだ張本人だと分かったら紗耶は私を拒絶してしまうのだろうか……。
これまで沢山紗耶には助けてもらったのに、まるで恩を仇で返すような形となってしまいそうで。そう思うと何だか怖くなってくる。
「そのうち紗耶には正直に話すつもりだけど、君の事は出来る限り伏せようと思う。俺の勝手な感情のせいで君達の関係を壊したくないから」
すると、そんな私の心境を察したように、高坂部長は伸ばした手を私の頭にそっと乗せてきた。
「ごめんね、椎名さん。君は何も悪くない。悪いのは……全部俺だから」
そう言って不安な心をほぐすように、穏やかでゆったりとした甘い声と優しく頭を撫でてくれる高坂部長の大きな掌のお陰で、気持ちが少しだけ軽くなっていく気がした。
暫くしてからようやく気持ちが落ち着き始めたところで、私は改めて消化しきれない疑問を彼に投げてみる。
ここまで好意を寄せて貰っているのは純粋に有難いと思うけど、美人で器量も良くて大人な紗耶に優っている所なんて何も思い付かない。
だから、彼女と同じように完璧な高坂部長が一体私の何にここまで惹かれているのか理由をどうしても知りたくて、高鳴る鼓動を抑えながら彼の返答をじっと待った。
「そうだなー。例えば、素直なところとか?椎名さんって感情が表に出やすいから側から見てて何考えてるか直ぐ分かるよ。それが凄く可愛くて。それに優しいし、礼儀正しいし、真面目だし。あと、笑った顔が好きだなー。見てるだけで癒されて一日の疲れがそれだけで吹っ飛ぶ。だから、出来ることなら俺の隣でずっとその顔を見てていたいし、それと……」
「も、もういいです!十分伝わりましたから!」
これ以上聞くと恥ずかしさで死んでしまいそうなので、私は尚も続こうとする高坂部長の惚気話を強制的に遮断させる為、慌てて両手を前に差し出した。
「あはは。そいういう所も好きだよ。本当に椎名さんって可愛い人だよね」
それなのに、更に追い打ちをかけるように再び高坂部長から告白をされてしまい、頭が混乱してきた私はこれ以上彼と目を合わせることが出来ず、全身に熱を帯びた状態で言葉を詰まらせてしまう。
「紗耶のことは今でも好きだよ。彼女を嫌いになる理由なんてどこにもないから。けど、それ以上に俺は君を好きになってしまったんだ。でも、椎名さんには彼氏がいるし、そんな感情を持ってはいけないと自制してきたつもりだったけど……やっぱり無理だったみたい」
そして、自傷気味に笑って答えてくれた高坂部長の言葉が私の心に深く響いてきて、思わず視線を彼の方へと戻す。
確かに、好きな気持ちはどうすることも出来ない。
私だって、この気持ちを澤村さんに受け入れられなかったとしても、やっぱりまだ彼のことを諦めきれない。
今だって思い出すだけでも胸が締め付けられて、少し触れるだけで“好き”がいっぱい溢れ出してきて、もう止められない。
その想いは私も痛い程良く分かるから、これ以上紗耶のことを話に出すのはやめた方がいい気がして、開きかけた口を直ぐに閉じた。
「これからは紗耶と少し距離を置こうと思う。この状態のまま彼女と付き合うのも申し訳ないし、紗耶は俺との結婚を本気で考えているみたいだから尚更慎重になってもらわないと。彼女を不幸にさせるわけにはいかないでしょ?」
それから、穏やかな表情ではあるも、何処か苦しげな眼差しで打ち明けてくれた紗耶に対する配慮に、私は胸を打たれた。
高坂部長も彼女のことを大切に考えてくれているのだと改めて知ることが出来、嬉しい反面やっぱり残念で。何とも言えない複雑な心境に思わず拳を強く握ってしまう。
私がいなければ、紗耶は何の弊害もなく高坂部長とこのまま幸せな結婚を迎えていたのかもしれない。
そして、お互い大切に思いやって、誰もが羨むような素敵な夫婦になれて、温かい家庭を作れたのかもしれないのに。
それよりも、これから紗耶はどうなってしまうのだろうか。
あれ程高坂部長のことを好きでいるのに。
側で支えたいのに、自分を追い込んだ張本人だと分かったら紗耶は私を拒絶してしまうのだろうか……。
これまで沢山紗耶には助けてもらったのに、まるで恩を仇で返すような形となってしまいそうで。そう思うと何だか怖くなってくる。
「そのうち紗耶には正直に話すつもりだけど、君の事は出来る限り伏せようと思う。俺の勝手な感情のせいで君達の関係を壊したくないから」
すると、そんな私の心境を察したように、高坂部長は伸ばした手を私の頭にそっと乗せてきた。
「ごめんね、椎名さん。君は何も悪くない。悪いのは……全部俺だから」
そう言って不安な心をほぐすように、穏やかでゆったりとした甘い声と優しく頭を撫でてくれる高坂部長の大きな掌のお陰で、気持ちが少しだけ軽くなっていく気がした。