白い嘘と黒い真実
「お待たせしました。アイスコーヒーとパンケーキセットになります」
それから、丁度会話が途切れたところで高坂部長が注文した料理が届き、店員さんにこのやり取りを見られた気恥ずかしさで私は思わず俯いてしまう。
「はい。勝手に頼んじゃったけど、せめてものお詫びとしてご馳走させて。これだけじゃまだまだ足りないけど」
「え?あ……。そんな、すみません。それじゃあお言葉に甘えて頂きます」
まさか奢ってくれるとは思ってもいなかったので、急に差し出されたパンケーキセットの前で私は目が点になったと同時に、“お詫び”という言葉に何だか心が痛み、とりあえずここは素直に応じることにした。
「私ここのパンケーキが好きなんで有難いです。高坂部長もどうですか?」
「いいよ。俺は君が美味しそうに食べていところを見ているだけで十分だから」
何だか私一人だけ食べるのは忍びないので彼にも勧めてみたけど、やんわりと断ってきた高坂部長の表情は本当に嬉しそうな笑顔で。
彼の優しさを身に沁みて感じた私は、胸がじんわりと熱くなる。
やっぱり、これだけ思いやりがあって誠実な人に裏があるなんて到底思えない。
澤村さんが言うことに間違いはないかもしれないけど、もしかしたら高坂部長は何かに巻き込まれているだけなのかもしれない。
だとしたら、少しでも力になれることはないかと。私は動かしていた手を止め、一歩踏み込む決意を固める。
「あの、高坂部長!何か困っていることはありませんか?例えば……人に言えない悩みとか!」
「え?急にどうしたの?」
しかし、どう切り出せばいいのか分からず直球で尋ねてみたら案の定。ポカンとした目を向けられてしまい、我ながら話の持っていき方が下手だとつくづく思い知らされる。
「えと……その……これから友人としてお付き合いしていくなら、人に話づらいことも言い合える仲になれればいいなと思いまして」
流石に、暴力団と関わっていませんか?とは聞けない為、短い間で思いついた理由を伝えてみたものの、これもやはり不自然だったかもしれないと段々不安になってきた。
「ありがとう。まさかそこまで考えてくれているとは思わなかったよ。……そうだね。今は特にないけど、何かあれば相談させてもらうから」
とりあえず怪しまれずに済んだのは良かったけど、結局空振りに終わり私は密かに肩を落とす。