白い嘘と黒い真実
やっぱり難しいなあ……。
あんな風に言われたらこれ以上踏み込むことなんて出来ないし、もしかしたら本当に何もないのかもしれない。
真相に辿り着くには、もっと高坂部長と親しくならないといけないのだろうか。
でも、変な誤解を招きたくないし、邪な考えで彼に近付きたくはないし、墓穴を掘る可能性だってある。
ひとまず友人という立ち位置だけど、最善を尽くすにはこれからどう彼と接すればいいのだろうか……。
あれから話題は職場のことや紗耶の話になり、完全に聞く機会を失ってしまった私は、会話が弾む中でも頭の片隅で悶々としていた。
そして、パンケーキを食べ終わり、暫くして私達はお店を後にすると、入り口前で高坂部長に別れを告げてから帰路に着く。
そういえば、急な出来事ですっかり頭から抜け落ちてしまったけど、今日一日あのストーカ男の姿を見ていない気がする。
今も特に視線を感じることはないし、もしかしたら私が警察署に行ったことを知って危機感を抱いたのかもしれない。
ストーカ行為がなくなれば不安から解放されて一安心だけど、結局何処の誰なのか分からず仕舞いなのは少し悔しいような……。
けど、何はともあれ日常が戻ってくれればそれ以上望む事はないので、後数日間何もなければ澤村さんの合鍵は返した方がいい気がする。
そう思い、私は何気なく鞄から鍵を取り出すと、掌に乗せたままそれをじっと見つめる。
出来ることなら、このまま返したくない。
今となってはこの鍵が心の支えとなっているのに、これを手放すなんて考えたくない。
……でも、返さなきゃ。
私は、澤村さんの彼女にはなれないから。
「ああ、ダメだ。泣けてくる」
まだハッキリと振られたわけではないのに、そう考えるだけでもこんなに悲しくなるなんて情緒不安定もいいところだ。
高坂部長もこんな気持ちなのだろうか。
私も、せめて澤村さんと友人のような関係になれたら良いんだけどなあ……。
とりあえず、真面目に今後何もなければ、鍵は澤村さんに返さなくてはいけないと。そう自分に言い聞かせながら握っていた鍵を鞄の中へ戻そうとした時だった。
「あれ?」
ふと視界の片隅で捉えた、見覚えある後ろ姿。
見ると、向かいの通りで私の前を歩く、スラッとした艶やかな黒髪の女性。
後ろ姿だけでもモデル級のスタイルだと分かる人といえば、一人しかいない。
桐生さん!まさかここで会えるなんて!
あれ以降一度も会う事はなく、どうやって彼女を探し出せば良いのかずっと考えていたけど、思わぬ偶然にこれまで心に纏っていた靄が一気に晴れる。
私は進めていた歩を止めて、急いで近くにあった横断歩道を渡ると、彼女と一定の距離を保ちながら、なるべく足音を立てないよう息を潜めて後を追う。
このまま声を掛けようとも思ったけど、彼女は本当に神谷組の人間なのか。もしかしたらこの目で確かめる事が出来るかもしれないので、私は探偵になったような気分になりながら、桐生さんの動向を暫くの間偵察することにした。
あんな風に言われたらこれ以上踏み込むことなんて出来ないし、もしかしたら本当に何もないのかもしれない。
真相に辿り着くには、もっと高坂部長と親しくならないといけないのだろうか。
でも、変な誤解を招きたくないし、邪な考えで彼に近付きたくはないし、墓穴を掘る可能性だってある。
ひとまず友人という立ち位置だけど、最善を尽くすにはこれからどう彼と接すればいいのだろうか……。
あれから話題は職場のことや紗耶の話になり、完全に聞く機会を失ってしまった私は、会話が弾む中でも頭の片隅で悶々としていた。
そして、パンケーキを食べ終わり、暫くして私達はお店を後にすると、入り口前で高坂部長に別れを告げてから帰路に着く。
そういえば、急な出来事ですっかり頭から抜け落ちてしまったけど、今日一日あのストーカ男の姿を見ていない気がする。
今も特に視線を感じることはないし、もしかしたら私が警察署に行ったことを知って危機感を抱いたのかもしれない。
ストーカ行為がなくなれば不安から解放されて一安心だけど、結局何処の誰なのか分からず仕舞いなのは少し悔しいような……。
けど、何はともあれ日常が戻ってくれればそれ以上望む事はないので、後数日間何もなければ澤村さんの合鍵は返した方がいい気がする。
そう思い、私は何気なく鞄から鍵を取り出すと、掌に乗せたままそれをじっと見つめる。
出来ることなら、このまま返したくない。
今となってはこの鍵が心の支えとなっているのに、これを手放すなんて考えたくない。
……でも、返さなきゃ。
私は、澤村さんの彼女にはなれないから。
「ああ、ダメだ。泣けてくる」
まだハッキリと振られたわけではないのに、そう考えるだけでもこんなに悲しくなるなんて情緒不安定もいいところだ。
高坂部長もこんな気持ちなのだろうか。
私も、せめて澤村さんと友人のような関係になれたら良いんだけどなあ……。
とりあえず、真面目に今後何もなければ、鍵は澤村さんに返さなくてはいけないと。そう自分に言い聞かせながら握っていた鍵を鞄の中へ戻そうとした時だった。
「あれ?」
ふと視界の片隅で捉えた、見覚えある後ろ姿。
見ると、向かいの通りで私の前を歩く、スラッとした艶やかな黒髪の女性。
後ろ姿だけでもモデル級のスタイルだと分かる人といえば、一人しかいない。
桐生さん!まさかここで会えるなんて!
あれ以降一度も会う事はなく、どうやって彼女を探し出せば良いのかずっと考えていたけど、思わぬ偶然にこれまで心に纏っていた靄が一気に晴れる。
私は進めていた歩を止めて、急いで近くにあった横断歩道を渡ると、彼女と一定の距離を保ちながら、なるべく足音を立てないよう息を潜めて後を追う。
このまま声を掛けようとも思ったけど、彼女は本当に神谷組の人間なのか。もしかしたらこの目で確かめる事が出来るかもしれないので、私は探偵になったような気分になりながら、桐生さんの動向を暫くの間偵察することにした。