白い嘘と黒い真実



__偵察開始からかれこれ十数分が経過。

時折物陰に隠れながら彼女の後を付いて行くと、歓楽街の中へと入り、更に進むと今度は人気のない薄暗い路地裏へと進んでいく。


……どうしよう。なんか、怖い。
普段こんな場所なんて立ち寄った事ないのに……。

周りを見ると風俗店やシャッターが閉まった空き店舗や、看板のない怪しいお店などが立ち並び、すれ違う人達も柄の悪そうな雰囲気を漂わせている。

もしかしたら途中で怖そうな人に声を掛けられてしまうかもしれない恐怖が襲うけど、ここまで来て投げ出すわけにもいかず、私は余計な考えを振り払って彼女を見失わないように必死で後を追った。

それから暫くして、桐生さんは突き当たりにある古い雑居ビルの前で立ち止まり、そのまま地下へと続く階段を降りていく。

雑居ビルには何も看板がなく、そもそもとして使用されている形跡もなく、廃墟ではないのかと思うくらい外壁は崩れていて、窓ガラスも所々割れている。
まるで幽霊でも出てきそうな雰囲気に、出来る事なら今すぐUターンしてこの場から逃げ出したいくらいだった。


でも、彼女が中にいるし、高坂部長の話を聞くにはまたとないチャンスだし、これを逃せばずっと真相は闇に包まれたままかもしれない。

彼をこれ以上疑うのも嫌だし、紗耶のことも心配だし……ここは前進あるのみっ!!

こうして自分を大いに奮い立たせ、私は震える心臓を落ち着かせるために深呼吸を何度かした後、生唾を飲み込んでから恐る恐る雑居ビルの階段を降り始める。

そして、地下一階まで辿り着くと中は薄暗くて埃っぽく、通路の突き当たりには一枚の黒い扉があり、私は足音をたてないよう静かに近付いてからそっと耳をあてた。


「……そうか………あいつらも………そうだね」

すると、桐生さんの声とは別に若そうな男性の声が聞こえてきたけど、それ以外の人の会話や物音はなく、おそらく中には二人しかいないのだろうと。一先ず胸を撫で下ろして、私は寂れたドアノブにゆっくりと手を掛ける。

なるべく物音を立てないよう静かに扉を開けようとしたけど、錆びているせいか少し開いただけでも低い金属音が大きく鳴り響き、奥のカウンター席に座っていた桐生さんと、若い男性の視線が一斉にこちらに集中してしまった。


「……あ、あの……。すみません、お取り込み中に」

突入したはいいもののなんて声を掛ければいいのか分からず、二人の驚いた視線を一身に浴びながら、とりあえず苦笑いを浮かべて小さく頭を下げる。

「あなた……なんでここに?」

これまで後を付けられていた事に全く気付いていない様子の桐生さんは、表情を強張らせながら警戒するような冷めた目で私を睨んできて、その反応に少しだけ怖気付いてしまう。
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