白い嘘と黒い真実
「あの……。失礼なのは重々承知の上でお聞きします。桐生さんは神谷組の人間なんですか?」
話はまずそこからだと結論に至った私は恐る恐る尋ねてみると、桐生さんは表情一つ変える事なく、暫く口を閉ざしたままじっと私の目を見据えた後、口元を小さく緩ませてから無言で首を縦に振った。
「ええ、そうですよ。別に隠すことでもありませんのでご安心下さい」
そして、花が綻ぶようなあどけなさの残る柔らかい笑みを見せてくれたので、そこでようやく私の緊張感は緩み始め、私も硬くなった表情を少しだけほぐした。
「そういえば、まだ名乗っていないのに名前知ってたんですね。あの……やっぱり私のことを偵察してたんですか?」
彼女との距離が少しだけ近付いたところで更に踏み込んだ質問をしてみると、相変わらず桐生さんは微笑んだまま私から視線を逸らさずに、真っ直ぐとこちらを見つめてくる。
「はい。気分を害したようでしたら謝ります」
私の問いかけに対して直ぐに認めてくれたのは良かったけど、それ以上話す気はないのか。またもや一言しか返答がなく、その後の会話がなかなか続かない。
それならば、この際納得いくまでとことん質問をぶつけてみようと、私は恐怖心を振り払い覚悟を決めて、彼女の方へと少しだけ身を寄せた。
「あの、単刀直入に聞きます。桐生さんが私に近付いて来たのは、もしかして私が良くない組織に絡んでいるからですか?」
そして、私もビー玉のようなくりっとした桐生さんの目を、真剣な眼差しでじっと見返す。
すると、ここに来て彼女の眉毛が微かに反応し、穏やかだった表情が段々と強張り始めていったので、私もつい身構えてしまった。
「質問を質問で返すようで申し訳ないですが、椎名さんは何故ここまで私を追いかけて来たのですか?」
一体何を言われるかと思いきや。急に話題が自分のことへと切り替わり、不意をつかれた私は一瞬呆気に取られる。
「えと……。確かめたいことがあるんです。知人が暴力団組織に関わっているかどうか。それによって私の大切な人が傷付くかもしれないので」
何はともあれ、ここは正直に打ち明けようと。誰とまでは言わないけど抱えている事情をほぼありのまま伝えると、強張っていた桐生さんの表情が再び緩み始めていった。
「…………その人の為にここまでしたのですか?その方は椎名さんにとってそんなに大切な人なんですね?」
暫く返答がなく、不安になって声を掛けようとしたところ、急にとても穏やかな声でそう尋ねてきたので、何故ここまで気に掛けられているのか分からないまま私は無言で頷く。
「はい。何度も私を助けてくれたので危険な目に遭わせたくないし、守りたいんです。これがその人の為になるのか分からないですが、もし私の身近で不穏な空気が流れているのだとしたら、それをハッキリさせたいんです。だから、何か知っていることがあれば私に教えて下さい!」
それから、思いの丈をここで一気に放出し、揺るがない瞳で彼女をしっかりと見据える。
再びこの空間に流れる長い沈黙。
これが何を意味するか分からないけど、私の想いは全て桐生さんに伝えたので、後はどう出るかは全て彼女次第。
「………守りたい……か……」
すると、なかなか返答がないことに心拍数が上昇していく中、ポツリと呟いた桐生さんの独り言が静かな空間に響き、思わぬ彼女の反応を受けた私は少しだけ肩の力が緩んだ。
「あなたの気持ち、良く分かりますよ」
そして、まるで何かに思い馳せているような遠い目で言われた彼女の一言が何だか重く感じ、私はそんな桐生さんの横顔を黙って見つめる。
「椎名さん、あの高坂という男には十分気を付けてください。私が言えることはそれだけです」
そう言うと、桐生さんは私の返答を待たずして椅子から立ち上がり、そのまま黙礼してからこの部屋を去って行ってしまった。
突然話を強制終了させられた私は、呼び止めることもせず、彼女の姿が消えるまで暫く呆然としながらその場に留まる。
話はまずそこからだと結論に至った私は恐る恐る尋ねてみると、桐生さんは表情一つ変える事なく、暫く口を閉ざしたままじっと私の目を見据えた後、口元を小さく緩ませてから無言で首を縦に振った。
「ええ、そうですよ。別に隠すことでもありませんのでご安心下さい」
そして、花が綻ぶようなあどけなさの残る柔らかい笑みを見せてくれたので、そこでようやく私の緊張感は緩み始め、私も硬くなった表情を少しだけほぐした。
「そういえば、まだ名乗っていないのに名前知ってたんですね。あの……やっぱり私のことを偵察してたんですか?」
彼女との距離が少しだけ近付いたところで更に踏み込んだ質問をしてみると、相変わらず桐生さんは微笑んだまま私から視線を逸らさずに、真っ直ぐとこちらを見つめてくる。
「はい。気分を害したようでしたら謝ります」
私の問いかけに対して直ぐに認めてくれたのは良かったけど、それ以上話す気はないのか。またもや一言しか返答がなく、その後の会話がなかなか続かない。
それならば、この際納得いくまでとことん質問をぶつけてみようと、私は恐怖心を振り払い覚悟を決めて、彼女の方へと少しだけ身を寄せた。
「あの、単刀直入に聞きます。桐生さんが私に近付いて来たのは、もしかして私が良くない組織に絡んでいるからですか?」
そして、私もビー玉のようなくりっとした桐生さんの目を、真剣な眼差しでじっと見返す。
すると、ここに来て彼女の眉毛が微かに反応し、穏やかだった表情が段々と強張り始めていったので、私もつい身構えてしまった。
「質問を質問で返すようで申し訳ないですが、椎名さんは何故ここまで私を追いかけて来たのですか?」
一体何を言われるかと思いきや。急に話題が自分のことへと切り替わり、不意をつかれた私は一瞬呆気に取られる。
「えと……。確かめたいことがあるんです。知人が暴力団組織に関わっているかどうか。それによって私の大切な人が傷付くかもしれないので」
何はともあれ、ここは正直に打ち明けようと。誰とまでは言わないけど抱えている事情をほぼありのまま伝えると、強張っていた桐生さんの表情が再び緩み始めていった。
「…………その人の為にここまでしたのですか?その方は椎名さんにとってそんなに大切な人なんですね?」
暫く返答がなく、不安になって声を掛けようとしたところ、急にとても穏やかな声でそう尋ねてきたので、何故ここまで気に掛けられているのか分からないまま私は無言で頷く。
「はい。何度も私を助けてくれたので危険な目に遭わせたくないし、守りたいんです。これがその人の為になるのか分からないですが、もし私の身近で不穏な空気が流れているのだとしたら、それをハッキリさせたいんです。だから、何か知っていることがあれば私に教えて下さい!」
それから、思いの丈をここで一気に放出し、揺るがない瞳で彼女をしっかりと見据える。
再びこの空間に流れる長い沈黙。
これが何を意味するか分からないけど、私の想いは全て桐生さんに伝えたので、後はどう出るかは全て彼女次第。
「………守りたい……か……」
すると、なかなか返答がないことに心拍数が上昇していく中、ポツリと呟いた桐生さんの独り言が静かな空間に響き、思わぬ彼女の反応を受けた私は少しだけ肩の力が緩んだ。
「あなたの気持ち、良く分かりますよ」
そして、まるで何かに思い馳せているような遠い目で言われた彼女の一言が何だか重く感じ、私はそんな桐生さんの横顔を黙って見つめる。
「椎名さん、あの高坂という男には十分気を付けてください。私が言えることはそれだけです」
そう言うと、桐生さんは私の返答を待たずして椅子から立ち上がり、そのまま黙礼してからこの部屋を去って行ってしまった。
突然話を強制終了させられた私は、呼び止めることもせず、彼女の姿が消えるまで暫く呆然としながらその場に留まる。