白い嘘と黒い真実

第11話.甘い時間



高坂部長とお茶をしてから、かれこれ早三日が経過。


あれから紗耶の様子に何の変化もなく、顔を合わせれば普段通り笑顔で話しかけてくれて、ランチも一緒に食べている。

高坂部長が紗耶に話すと打ち明けてからずっと覚悟はしていたけど、一向に変わらない彼女の態度に何処かほっとしているような。或いは、ショックを隠してただ平静を装っているだけなのか。
どちらとも読み取れない振る舞いに、私はどうすればいいのか未だ頭を悩ませている。

もしかしたら、高坂部長はまだ話していないのかもしれない。
だとしたら、私から彼の話を持ちかけるのは不自然になってしまうけど、高坂部長の裏側も早く伝えなきゃいけないと思うし……。


……ああ、もうどうしようっ!!

これ以上考えるとキャパオーバーで頭の中がパンクしそうになり、私は誰もいない書庫で壁に両手をつき額をくっ付ける。

ここ最近ずっとこんな調子で、悩みが絶えない。
今までの人生でこんなに苦しむのはこれが初めてかもしれない。

進路で悩む時よりも、自分が不倫相手だと分かった時よりも、結婚詐欺に遭った時よりも、元彼が逮捕された時よりも、ずっとずっとこっちの方が辛い。

これまでは全部自分の事しか考えてこなかったけど、人の事になると何でこうも難しく、胸が痛くなるのだろうか……。



「椎名さん、大丈夫?」

「は、はいっ!?ご、ごめんなさいっ!」

すると、突然背後から名前を呼ばれ、咄嗟のことに頭がパニック状態に陥った私は訳も分からず無意味に謝ってしまった。

振り向くと、そこにはいつの間にやら高坂部長が立っていて、心配そうな面持ちでこちらの顔を覗いてくる振る舞いに、思わず心臓が小さく跳ね上がる。

「あ……。私は全然大丈夫です。こ、高坂部長はどうしてここに?」

まさかこのタイミングで彼が現れるとは思ってもいなかったので、桐生さんの件もあり、私は冷や汗を垂らしながらぎこちなく笑って答えた。

「ちょっと古い資料を取りに来たんだけど、そしたら君が壁にもたれ掛かっていたから驚いて。本当に平気?どこも悪くないの?」

未だ不安が拭いきれていないのか。高坂部長は尚も険しい表情で私と距離を縮めてきたので、お陰で彼から漂ってくる香水とも違う花のような甘く良い香りに触発され、危うく気がおかしくなりかけた。

「ご心配をおかけしてすみません。ちょっと考え事をしていただけなので……」

「そうなの?それじゃあ、俺でよければ話聞くけど。椎名さんもこの前そう言ってくれたし」

兎に角、これ以上誤解がないよう正直に打ち明けた途端、高坂部長は更に食い気味に詰め寄ってきたので、私はぎくりと肩を小さく震わせる。
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