白い嘘と黒い真実
まずい。うっかり口を滑らせちゃったけど、どう誤魔化そうか……。

……。

………いや。

ここはこの際だから切り込んでしまって良いかもしれない。
どのみち彼にも話をするつもりだったし、今は誰もいないからまたとないチャンスかもしれない。
それに、友人として見てくれるなら、きっと悪いようにはされないはず。

私は短い時間の中で頭をフル回転させた後、自分を奮い立たせてから、意を決して拳を強く握りしめる。

「あ、あの、高坂部長。つかぬことをお聞きしますが、もしかして裏で良くない組織と関わっていませんか?例えば……暴力団とか!」

一体どう尋ねれば良かったのか。あまりにもド直球過ぎて後になって後悔したけど、言ってしまったものは仕方ない。
とりあえず、私は改めて会話術が下手な自分を呪いながら真剣な眼差しで彼を見つめた。

一方で高坂部長は一瞬目を見開いたけど、そこまで驚いた反応はなく、暫しの間口を噤んでから深い溜息を一つはくと、困ったような笑顔を見せてきた。

「もしかして、彼氏から何か聞いたのかな?」

質問を質問で返されてしまい何て答えれば良いのやら。
桐生さんのことは伏せた方がいい気がして、一先ず無言で首を縦に振ることにした。

「そっか……。それじゃあ、正直に答えなきゃだね。……実は、少し前から父親の裏稼業を手伝ってて、それが君の言う通り暴力団組織のサポートなんだ」

すると、高坂部長は躊躇いもなくすんなりと打ち明けてくれたことに、一瞬自分の耳を疑う。
まさか、こんなにあっさり答えてくれるとは予想もしていなかったので、暫く唖然としながら私はその場に佇んだ。

「うちは運送業だから奴らにとっては使い勝手のいい取引相手なんだ。その分見返りも大きくて、犯罪だと分かっていてもそれが利益に大きく貢献してしまっている以上後に引けなくなってしまって……。これじゃあ、もうフロント企業も同然だよね」

そして、視線を足下に落とし、思い詰めた表情で話す姿をこれ以上見たくなくて、思わず彼の腕を掴んでしまう。

「高坂部長は仕方なくお父さんの仕事を手伝っているんですね?自分の意思ではないですよね?」

兎にも角にも、それを一番確認したくて。
余裕がない私は必死になりながら彼に詰め寄った。

「当たり前だよ。俺はもうこんな事はしたくない。立場上内部告発は出来ないけど、もし警察が捜査に踏み込んできたら全て話すつもりだよ」

そんな私の問い掛けに力強く頷いてくれた高坂部長の真っ直ぐな瞳に魅せられて、取り巻いていた不安が徐々に緩和されていく。

「ごめんね。こんな大事な話を今まで隠して。こんな俺が誰かと付き合う資格がないのは分かっていたのに、どうしても気持ちが抑えられなくて……」

それから、とても悲し気な表情で話す彼の心境がひしひしと伝わってきて、段々と胸が苦しくなってくる。
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