白い嘘と黒い真実
……なんだろう。
まるで告白を遮られたような。
やはり神様がまだ時期早々だと忠告しているのだろうか……。
そうとしか思えない絶妙なタイミングに私は一人項垂れると、待たされている間火照った体が徐々に冷めてきて、一先ずここは引こうと心に決めた。
「すみません、話の途中でしたね。どうしました?」
程なくして澤村さんの通話が終わり、撃沈した私の気持ちなんぞ露知らず。あっけらかんとした様子で話を掘り起こされた事に、私はなんて返答しようか言葉を探す。
「え、えーと……私、澤村さんの好物が知りたいなあって思って。どうせなら好きな物をメニューに取り入れたいので」
どうにか上手い誤魔化し方を思い付き、せっかくなのでこれを機に色々質問してみることにしようと。先ずは一番知りたい情報を探ってみることにした。
「好きなものですか?基本なんでも食べますけど……うどんとラーメンは出来るだけ避けて貰いたいですね」
そんな中、なぜかピンポイントでメニューを指定してきた意味がよく分からず、私は一瞬目が点になる。
「その二つが嫌いなんですか?」
どれも万人受けするメニューで、嫌いな方が珍しいなと思っていると、何やらうんざりするような顔付きで澤村さんは首を横に振ってきた。
「うちの人間は好んでよく食べるんです。外に出れば大体それで。しかもバカみたいな量を食うから流石に夕食は違うものがいいかなって」
そう溜息混じりで話す彼の話に納得した私は、その背景にある苦労が何だかよく伝わってくるようで、思わず苦笑してしまう。
「澤村さんはあまり食べないんですか?」
それなりに身は引き締まっているから小食という印象はあまりないけど、見た目は細いので、もしやと思い何気なく尋ねてみる。
「いや、人並みですよ。あの人達から見れば違うんでしょうけど。しかも、飯は量関係なく十分もしないうちに食い終わるし、野菜取らないし、不規則だし、警察官は早死にするってよく言われますね」
「ええ!?それは困りますっ!」
すると、黙って聞いていたら最後の強烈な一言に私は血の気が引いて、思わず全力で拒絶反応を示してしまった。
「あくまで一般論ですから。俺はそんな食生活御免です。だから、野菜多めだと有難いですね」
しかし、取り乱す私とは裏腹に、とても落ち着いた様子でさり気なくリクエストをしてきた澤村さんに不意をつかれた私は、一瞬動きが止まる。
「……そ、それじゃあ、明日はお野菜たっぷりの鶏鍋にしますね。その次の日も副菜は野菜中心にしますから」
それから、少し緊張した面持ちでここぞとばかりに明日以降の約束を恐る恐る取り付けてみると、澤村さんは静かに微笑んでから私と視線を合わせてきた。
「分かりました。期待してます」
その心に響くような温かい一言が、私の全てを受け入れてくれたようで。
彼女として認められたわけではないのに、それに近いような喜びが全身を駆け巡り、これまでにない幸福感に包まれていく。
やっぱり、澤村さんの雰囲気が変わったのは間違いないと思う。
これ程に笑ってくれて、よく喋ってくれて。
なんでそう変化したのか全く分からないけど、この際理由なんてどうでもいい。
こうして彼にまた近付く事が出来たのなら、今の私にはそれだけで十分だから……。