白い嘘と黒い真実
それから、私は未だ体の熱が治らないまま、澤村さんに別れを告げて、呆然としながら自分の部屋へと戻る。

そして、掌には手放す覚悟を決めた筈の合鍵をしっかりと握り締め、その小さな幸せを胸元にそっとあてた。

この鍵がこうして残り続けることは、彼の警戒がまだ解かれていない証拠。

だから、浮かれた話じゃないのは十分理解しているつもりだけど、それでもやっぱり心は満たされてしまっていて。

そんな自分にほとほと呆れながらも、今は純粋に彼の喜ばしい変化を身に沁みて感じていたくて。

この興奮が冷めぬまま、今夜はきっと眠れないのだろうなと。そんな事をぼんやりと考えながら、私は握り締めた合鍵を玄関にある鍵箱へと大切に保管したのだった。
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