白い嘘と黒い真実
第12話.本心と誤解
澄み渡った雲一つない真っ青な空。
その直下に広がるのは、辺り一面の新緑の山。
久しぶりにお目にかかる、この芸術的な青と緑のグラデーションは昔から秋の次にお気に入りの色合いで、何度見ても飽きる事はない。
「……ああ、空気が美味しい。出来る事ならずっとこうしていたい……」
私の故郷は山に囲まれているので、学生時代感動することなんて全くなかったのに。
今では自然のありがたみを痛感し、改めて当たり前じゃなくなった時の大切さを見に沁みて感じる。
本当に失ってからものの価値に気付くなんて、人はなんて愚かな生き物なのだろうかと。
景色に酔いしれて無駄に哲学者気分に浸りたくなってきた私は、既に使い古されたお決まりの台詞をこれでもかと頭の中で羅列する。
「ちょっと、椎名さん!その作業終わったら、こっち運ぶの早く手伝って!」
「焼き手足りないから、手空いたらお願い!」
「誰か野菜切ってもらえるー?」
けど、そんな都会の喧騒から離れた地で疲労した心を癒してもらおうとした矢先、背後から聞こえてきた慌ただしい声や物音によって感傷的な気分は見事にぶち壊されてしまった。
ここは都内から高速バスを使って二時間弱の所にある、山の中のバーベキュー会場。
毎年五月頃に開催される社レクは大体近場が多かったけど、今年は独身者主体の為、遠方が計画された。
しかも、今回の責任者は高坂部長なので女性社員の参加率が凄まじく、普段の倍以上の出席者をまとめきれない実行委員は皆てんやわんや。
そんな中で調理班という一番忙しい担当をくじ引きで当ててしまった私は、改めて自分の不運さを呪いながらも、そんな暇を与えさせない程の仕事量に到着早々ずっと駆け回りっぱなしだった。
「真子、ここは私が運ぶから焼いてきなよ。なんか長蛇の列出来てるし」
それを見兼ねて紗耶は真っ先に手を差し伸ばしてくれたのは有り難かったけど、言われて指を刺された方向に目を向けた途端、想像以上の人だかりに愕然として私は肩がずり落ちてしまう。
つい先程まで数人足らずだったのに、いつの間にやらイベント会場の配給待ち状態のような光景に、調理班の目まぐるしい忙しさはまさに地獄絵図のようだった。
「いやあ、行きたくない。間違いなく炭だらけじゃん。お肉焼くだけ焼いて自分は殆ど食べれないやつじゃん」
「いいから、つべこべ言わず早く行ってきな!真子の分は残しておくから!」
自分もあの一員になるのかと思うと足が全く進まず駄々を捏ねていると、母親の如く物凄い剣幕で紗耶に一括されてしまい、堪忍した私は言われた通り渋々地獄絵図の中に足を踏み入れることにした。
その直下に広がるのは、辺り一面の新緑の山。
久しぶりにお目にかかる、この芸術的な青と緑のグラデーションは昔から秋の次にお気に入りの色合いで、何度見ても飽きる事はない。
「……ああ、空気が美味しい。出来る事ならずっとこうしていたい……」
私の故郷は山に囲まれているので、学生時代感動することなんて全くなかったのに。
今では自然のありがたみを痛感し、改めて当たり前じゃなくなった時の大切さを見に沁みて感じる。
本当に失ってからものの価値に気付くなんて、人はなんて愚かな生き物なのだろうかと。
景色に酔いしれて無駄に哲学者気分に浸りたくなってきた私は、既に使い古されたお決まりの台詞をこれでもかと頭の中で羅列する。
「ちょっと、椎名さん!その作業終わったら、こっち運ぶの早く手伝って!」
「焼き手足りないから、手空いたらお願い!」
「誰か野菜切ってもらえるー?」
けど、そんな都会の喧騒から離れた地で疲労した心を癒してもらおうとした矢先、背後から聞こえてきた慌ただしい声や物音によって感傷的な気分は見事にぶち壊されてしまった。
ここは都内から高速バスを使って二時間弱の所にある、山の中のバーベキュー会場。
毎年五月頃に開催される社レクは大体近場が多かったけど、今年は独身者主体の為、遠方が計画された。
しかも、今回の責任者は高坂部長なので女性社員の参加率が凄まじく、普段の倍以上の出席者をまとめきれない実行委員は皆てんやわんや。
そんな中で調理班という一番忙しい担当をくじ引きで当ててしまった私は、改めて自分の不運さを呪いながらも、そんな暇を与えさせない程の仕事量に到着早々ずっと駆け回りっぱなしだった。
「真子、ここは私が運ぶから焼いてきなよ。なんか長蛇の列出来てるし」
それを見兼ねて紗耶は真っ先に手を差し伸ばしてくれたのは有り難かったけど、言われて指を刺された方向に目を向けた途端、想像以上の人だかりに愕然として私は肩がずり落ちてしまう。
つい先程まで数人足らずだったのに、いつの間にやらイベント会場の配給待ち状態のような光景に、調理班の目まぐるしい忙しさはまさに地獄絵図のようだった。
「いやあ、行きたくない。間違いなく炭だらけじゃん。お肉焼くだけ焼いて自分は殆ど食べれないやつじゃん」
「いいから、つべこべ言わず早く行ってきな!真子の分は残しておくから!」
自分もあの一員になるのかと思うと足が全く進まず駄々を捏ねていると、母親の如く物凄い剣幕で紗耶に一括されてしまい、堪忍した私は言われた通り渋々地獄絵図の中に足を踏み入れることにした。