白い嘘と黒い真実
そして更に時は過ぎ、そろそろ刑事さんとの面会を促されてしまったので、私は渋々首を縦に振り応じることにした。
その後は、始めに見た中年の刑事さんが病室に入ってきて、私は淡々と事の次第を話す。
それから、ギリギリまで悩みに悩んだ結果、私は紗耶のことを伏せる事に決めた。
これが良いのか悪いのか分からないけど、今のところ彼女を訴えたいという気持ちはない。
殺されかけたというのに、側から見れば何ともお人好しな人間だと思われるのかもしれないけど、詰まるところ、頭の整理がそこまで追い付いていないと言った方が正しいのだろうか。
一先ず、山の中を散策していたところ足を滑らせて落ちた事故という事にしたけど、何処か刑事さんは納得していない様子だった。
それから、第一発見者はバーベキュー会場の従業員だったそうな。
その従業員も、若い女性からの通報により現場に駆けつけたそうだけど、結局その女性が誰なのかは分からなかったらしい。
そんなこんなで病室での事情聴取は終わり、それから高坂部長の方にも無事意識が回復したということで一報を入れた。
そして、何気なく紗耶の事に触れてみると、どうやら彼女は急用が出来たと言って、急遽先に帰ってしまったとのこと。
高坂部長は責任者として明日にでも様子を見に行きたいと言ってくれたけど、トラブル案件がまだ後を引き摺っていて忙しそうなので、やんわりと断りを入れた。
とりあえず、一通りの報告は済まし、残すとこあと一人。
私は気持ちを落ち着かせるために小さく深呼吸をすると、着信履歴から紗耶の名前を引っ張って発信ボタンを押す。
おそらく、彼女が出ることはないと思う。
ただ、私はまだ生きているということだけ知らせたくて。
何度かコール音を鳴らしたけど案の定。やはり全く反応がない為、私は諦めて通話を切ってベッドに潜り込んだ。
刑事さんの話にもあったように始めの通報者が若い女性であるならば、紗耶の可能性はかなり高まってきているような気がする。
そう思うとほんの少しだけ心が軽くなったような。
本当に我ながら単純な人間なのはよく分かるけど、今はそれでいい。
それ以上のことは考えたくない。
そうやって、思考回路を無理矢理封じ込めると、一気に押し寄せてきた疲労感にようやく睡魔が襲ってきた私は、そのままゆっくり瞼を閉じると、いつの間にやら意識はそこで途絶え、深い眠りへと堕ちていったのだった。