白い嘘と黒い真実
◇◇◇



__翌日。




薬のお陰か、昨夜は思っていたよりもぐっすりと熟睡することが出来、私は不慣れな入院生活に戸惑いを感じながら朝の身支度を整える。

体を動かすと、所々にある傷や打撲の痛みが疼き出し、固定された右足首のせいで上手く行動が出来ない。

しかも、まだお風呂にも入れていないので、この煙くさい体を何とか洗い流したい気持ちに、起きてから早々ずっと不快感が拭いきれない。

命が繋がっただけでも有難いと思うべきなのに、それが当たり前となった瞬間、そんな謙虚な精神は一瞬で過ぎ去り、今では早く元の生活に戻りたい欲求が心を支配していく。

先生の話では、今日も変わらず異常がなければ明日には退院して良いと言われたので、後少しの辛抱と思いながら私は何気なくベット脇に置いてある携帯の画面に目を向けた。

やはり、今日も紗耶からの連絡はない。

分かってはいるけど、この動作を繰り返すのはもう何回目になるだろう。

何度見たって結果は変わらないのに、諦めの悪い私は気付けばまた小さな望みを無意識に掛けてしまう。


あれから会社と今後の勤務について再び連絡を取り、私の事情を考慮して一週間程の病休を貰えるということに話が落ち着いた。

そして、最後に通話を切る直前。上司から同じタイミングで紗耶も家庭の事情により一週間の有休を取得していることを聞かされ、驚きを隠せなかった私は、動揺する心を隠しながら当たり障りなく対応して現在に至る。


一体紗耶は今何をしているのだろうか。

あんな出来事があった後、タイミング良く家庭の事情があって休んでいるとは考えづらいし、もしかしたら、警察に追われるかもしれないと恐れて何処かへ逃亡したかもしれない。

そんな風に思いたくないけど、一向に連絡がない状況下。最悪の事態ばかりが頭をよぎり、またもや心が深い闇に飲み込まれそうになる。
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