白い嘘と黒い真実
……そっか。
あの時、桐生さんに念を押されて忠告されたのは、そういう事だったんだ。
それに、澤村さんにも危険が及ぶかもしれないと忠告されていたのに。
けど、今更気付いたところでどうしようもない。
もう手遅れだ。
それだけ、私がいかに浅はかだったのかが改めて浮き彫りになって。これじゃあ、澤村さんにバカだと思われても仕方ないよね。
暫く車が走行している間に、段々と落ち着きを取り戻し始めていく思考回路。
絶対絶滅のピンチだというのに、何故にこうも冷静に居られるのか自分でも不思議に思う。
これが全てを諦めた人の境地なのだろうか。
健君が捕まって以降これ以上最悪なことなんて起きるわけないと思っていたのに、更にどん底へと落ちる私は、一体どこまで神様に嫌われているんだろうと。
終いには自嘲するような乾いた笑いまで漏れ出してきて、そんな私を訝しげな目で見る男共の視線なんて、もはやどうでも良くなってきた。
始めから高坂部長にとって私は邪魔な存在だというのは、火を見るより明らかだったはずなのに。
けど、彼の巧みな話術と、好きという言葉に惑わされて本質が見えなくなっていた。
それに、紗耶の為にと掲げていたことが、結局は彼女を傷付け、破滅へと陥る。
もしかしたら、彼が紗耶の前でも私に対してやけに好意的な態度を示していたのは、全てそこへ繋げたかったのかもしれない。
そう疑い始めら、これまでの不可解な点が全て結び付いくる。
流石にこんな事態にまで発展するとは彼自身予想していたのかは分からないけど、おそらく私はずっと掌で転がされていたのだろう。
そうとも知らず、ただひたすら信じ続けた結果こうも裏目に出るのは、後にも先にもおそらくこれ以上のものはないと思う。
これから自分がどうなるのか分からない。
鞄は取り上げられたままなので、澤村さんに助けを呼ぶことも出来ず、もはやまな板の鯉状態だ。
穏便に話すだけなんて到底考えられないし、もしかしたら拉致られて何処かに捨てられてしまうのかもしれない。
あるいは殺されて遺棄されるのか……。
未だ正体不明の男達に連れられていく中、今頭の中に浮かぶのはサスペンスドラマによくあるような数々の殺害現場のシーン。
折角命が繋がったのに、こうも早く危機が迫ってくるなんて、一体私はこの短期間でどれ程の波瀾万丈な人生を迎えているのだろうかと、しみじみとそう感じる。