白い嘘と黒い真実
その時、不意に高坂部長が背後を振り向いた瞬間、空気を割くような大きな破裂音が響き渡り、軽い悲鳴と共に肩が思いっきり跳ね上がる。


……え?今の音って?


一瞬トラックのタイヤがパンクしたのかとも思ったけど、その音は私の直ぐ目の前で聞こえてきた。

そして、ほのかに香る火薬の匂い。


まさか……。


恐る恐る彼が腕を伸ばす先に視線を向ければ、そこには真っ青な顔で地面に座り込む紗耶の姿。

それから、高坂部長の手には黒光りした小型の拳銃がしっかりと握られていた。

視線を戻せば紗耶の隣にはスマホが転がっていたので、おそらく密かに通報しようとしたのだろう。

けど、惜しくもそれは空振りに終わってしまった。


「紗耶どこ行くの?言っとくけど、君も一緒だよ?」

そんな私達の様子を楽しむかのように相変わらず高坂部長の表情は先程から何も変わらなくて、もはや狂っているとしか言いようがない。


「……あ、やめ……て……」


その場の空気が凍り付く。

唇が小刻みに震えている紗耶は、上手く声が出せないのか。歯切れの悪い言葉で何とか必死に抵抗を示す。

拳銃なんてドラマの世界だけかと思っていた。
けど、まさか現実で、しかもこれまで愛してた人からその銃口を向けられるなんて。


もはや今の彼には人間味なんて何も感じられない。

愛情も情けも何もない。

おそらく私達の命は彼の気分次第で最も簡単に奪われるのだろう。 

この場の支配権は全て彼に委ねられ、私達は身動き一つさえ出来ない。


すると、向かいに停車していた軽トラックのエンジン音が突如鳴り出したと同時に、眩いヘッドライトが私達を照らし出す。

何事かと目を細めながら振り向くと、運転席にはいつの間にやら人が居て、徐行運転をしながらこちらの方へと近付いて来た。

「とりあえず場所を変えたいから、二人ともあのトラックの荷台に乗ってもらってもいい?」

そう言うと、高坂部長は銃口を紗耶から私に切り替え、顎で指図してくる。

ここで大人しく従ったら、きっと二度と帰ることは出来ないのだろう。
かと言って、少しでも下手な動きをしたら撃たれて余計に寿命が縮まってしまうのだろうか。


嫌だ。

怖い。

まだ死にたくない。 


銃口を向けられて更に強調されていく恐怖と絶望感。

体を動かそうにも足がすくんで立っていることもままならくなり、震えも止まらない。

本当に私の命はここで終わりなのだろうか。
人を信じた故の結末は、こんなにも残酷なのだろうか。

私の人生は“過ち”のまま終わってしまうのだろうか……。
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