白い嘘と黒い真実
「真子!逃げてっ!」
全てを諦めかけた時、地面に座り込んでいた紗耶が突然こちらの元へと駆け出し、私の肩を強く押した。
その瞬間、再び辺りに響き渡った耳を劈くような破裂音。
私がよろけたのとほぼ同じタイミングで、紗耶の体が地面へと倒れ込む。
「紗耶あっ!」
思わず叫んで彼女の元へ駆け寄ろうとしたけど、直さま高坂部長に銃口を向けられてしまい、そこで足が止まってしまう。
「本当に椎名さんってお人好しだよね。裏切り者は置いてさっさと逃げればいいのに。せっかくの彼女の償いを無駄にする気?」
人を撃ったというのに、全く気にする素振りもなく嘲笑う目で私を見下ろす高坂部長。
その足元には、びくともしない紗耶の脇腹から止めどなく流れ出る血の波が広がり、ほのかな鉄の匂いが鼻を掠める。
目の前で徐々に増していく血の量に比例して、彼女の命も短くなり始めるのを一刻も早く食い止めたいのに、銃口を跳ね除ける程の勇気が出なくて、その悔しさと不甲斐なさに涙が零れ落ちた。
「大丈夫。泣かないで、そんな気持ちは直ぐ取り除いてあげるから」
まるで泣きじゃくる子供あやすような穏やかで優しい口調。
直ぐ側では元恋人の命が事切れかけているのに、そんなことには目もくれず彼はこの上ない程の満足げな表情で私に微笑みかける。
……ああ。
神様ごめんなさい。
全部、私が悪かったです。
今度からはちゃんと人の話をしっかりと聞きます。
もっと人を疑うようにします。
だから、お願いです。
どうか、もう一度だけ、そのチャンスを私に下さい。
絶対絶命の状況下、すがるように天を仰ぎ、心からの祈りを捧げながら、ある人物を強く強く思い浮かべる。
やっぱり、こんな時でも最後に私が求めるのは”あの人”しかいない。
そう改めて痛感した直後、全ての終止符を打つように二度目の発砲音が鼓膜を突き抜ける__。