白い嘘と黒い真実
すると、テーブル脇に置いてあった紗耶のスマホが突然震え出し、咄嗟に反応した彼女の様子を見る限りだと、相手が誰なのか何となく想像つく。

「もしかして、田中さん?」

おそらく十中八九そうであろうと確信付きながら、私はにやけ顔で必死に返信を考えている紗耶を眺めた。

「そうだけど。……言っとくけど、真子が考えているような関係じゃないからね。ただ、あの飲み会以降今でもたまに相談相手になってくれているだけだから」

そんな目で見られていることが癪に障ったのか。紗耶は小さく頬を膨らませながらこちらを軽く睨んでくる。

「分かってるって。ただ、そうなれば私と立場が一緒になって面白いかなって思っただけ」

その反応が更に可愛いと思えてしまう私は、心の中で密かに悶えつつも、何とか表情管理に徹した。


どうやら、高坂部長と別れてから紗耶は頻繁に田中さんと連絡を取るようになったらしい。

田中さんも澤村さんと同じ応援としてこの一件の捜査に携わっていた為、口には出さないけど裏で私達の事情は全て知っていた。

だから、事態が落ち着き始めた絶妙なタイミングで彼の方から連絡が入り、そこからずっとやり取りが続いているんだとか。

そのお陰なのか、思っていた以上に紗耶の精神的回復は早く、彼女が何と言うおうがおそらく田中さんは紗耶にとって特別な存在になりつつあるんだろうと、私は密かに期待を込めている。

「それはそうと、真子はどうなの?なんか澤村さんから微妙な返事を貰ったんでしょ。付き合うのも時間の問題じゃない?」

そう一人妄想に耽っていると、急に自分の話に切り替わり、不意を突かれた私は思わず変な声が漏れ出てしまった。

「あー……。うん、どうなんだろう。あれからずっと忙しそうだし。最近会ってないんだ」

高坂部長を逮捕してから、関わっていた暴力団組織やその裏の闇組織の捜査で彼が数日家に帰ってこないこともある昨今。
ゆっくりと話を出来る暇がない私達は、澤村さんのあの言葉を最後に何も進展がない。

それは彼が警察官である以上仕方がないと割り切ってはいるけど、あの時助けてくれたお礼もまだしっかりと出来ていないし、何よりも早く会いたい。

メッセージのやり取りは幾らかしているけど、なかなか既読がつかないし、ついても返事が来ないこともしばしば。

気長に待つと決めてはいたものの、こうも会えない日が続くと段々と気持ちが滅入ってきて、思わず深いため息が漏れ出る。
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