白い嘘と黒い真実
それから引き続き食事を満喫しながら世間話をして、退店時間となってもまだ話し足りない私達は、場所を変える為に少し離れた所にある小さな洋食店へと入った。
「ここ、実は私の行きつけなんだ。昔からあるお店で“牧野さん”っていうおじいちゃんマスターが切り盛りしてるんだけど、ここのコーヒーが凄く美味しいの」
そう自信を持って紹介してくれた紗耶は私をカウンター席に引き連れて、お勧めのコーヒーとデザートセットを注文してくれた。
「あれ、紗耶ちゃん。お友達連れてくるなんて珍しいね」
すると、注文を受けて直ぐに牧野さんというマスターは紗耶の隣に座る私に視線を向けると、皺の寄ったとても温かみのある笑顔を振りまいてくれた。
初対面だけど、その優しい微笑みだけで心が癒されたような気分になり、私も自然と笑顔を返す。
辺りを見渡すと中はそこまで広くなく、テーブル席が六つぐらいで、壁にはマスターの趣味なのか。様々な絵画が飾られていたり、内装も木彫で統一され、所々に観葉植物が飾られていたりでとても落ち着きのある雰囲気。
一目でこのお店が気に入った私は、ふと何気なく隣のカウンター席に目を向けた瞬間、席一つ分開けて横に並ぶ二人の先客の容姿に驚き、思わず二度見してしまう。
な、何この人達!?
顔面偏差値やば過ぎなのでは!?
年齢は二人とも同じくらいだろうか。
一人は座っていてもスタイルの良さが分かるくらい足の長さが際立ち、今までに見たことがない程顔のパーツが整った超美形なスーツ姿の黒髪男性。
もう一人はほんのりとした赤茶色の髪に、紺色のジャンパーとジーパン姿で、少し不良っぽい雰囲気を漂わせながらも、目はくりっとした子犬顔の爽やかイケメン男性。
澤村さんも負けないくらい格好いいけど、また次元の違うイケメン達を目の当たりにしてしまった私は、いけないと思いつつもついその二人に意識が行ってしまう。
「ほらよ、この前の結婚式の写真。なかなか綺麗だろ?俺もその時ばかりは少しだけ心が揺らいだぞ」
「……それ嫁さんにバレないよう気をつけろよ」
暫く覗き見していると、何やら赤茶髪の男性はポケットからスマホを取り出すと、ある画面を開いて隣の男に差し出す。
それを受け取った黒髪男性は渋い顔をした後、暫くの間無言のままその写真をじっと眺めていた。
「わざわざありがとな。とりあえず、安心した。これでようやくあいつも幸せになれるんだな……」
そして、これまで無表情だった彼の口元が徐々に緩みだし、意味深な台詞をポツリと呟く。
「マジでここまで漕ぎ着けるの大変だったんだぞ。紫織の執着は半端ないからな。つくづくお前はあいつに心底愛されていたんだって思うよ」
そんな彼に向かって、赤茶髪の男性は深いため息を吐きながらも、何処か満足げな表情で微笑んだ。
もしかして、別れた恋人の話でもしているのだろうか。
こんな超絶イケメンと別れる女性とは一体どんな人なんだろうと内心驚きながらも、二人の会話の内容に自然と胸の内がじんわりと熱くなってくる。
側から聞いてもしっかりと伝わってくる、その人への深い愛情。
別れても尚これだけ想える人がいるとは、なんてドラマチックなんだろうと。
盗み聞きをしている分際で、密かに一人胸をときめかす。
「それより、蓮も俺と関わるのはこの辺までにしとけ。役目も果たしたんだし、もうすぐ子供が産まれるんだろ?」
「まあ、物理的にこれから忙しくなるから会う機会は減ると思うけど、これは俺が好きでしていることだ。お前の指図なんて受ける気はねえし、余計なお世話だよ。それに、紫織は良くてもお前はまだ……」
すると、今度は不穏な話の流れになってきたところで、いい加減盗み聞きを止めなければと、視線を彼女の方へ戻した時だった。