白い嘘と黒い真実
「……ドラマが始まるまでまだ時間はありますよね?」
すると、暫しの間沈黙が続く中、不意に問いかけられた質問の意図ががよく分からず、私は不思議に思いながらも首を縦に振る。
「あの時自分の気持ちをちゃんと言えなかったので、これから時間になるまでたっぷりと伝えますよ」
「え?……きゃっ!さ、澤村さん?」
彼の言っている事が未だ理解出来ず、呆気に取られている中、突然彼の腕が私の膝に滑り込んだ瞬間、お姫様抱っこをされてしまい、思わぬ体制につい首元に勢い良くしがみついてしまった。
一方、澤村さんは軽いパニック状態に陥っている私を他所に、不敵な笑みを浮かべてそのまま私をリビングへと運ぶ。
「そもそもとして、椎名さんは無防備過ぎます。こうも易々と男の部屋に入られるのも困りものですね」
それから、呆れたように小さく溜息を吐くと、ソファーの上に優しく降ろし、覆い被さるように両手を付いてから私を見下ろす。
これから何をしようとしているのか。
そんなことは聞かなくても彼の熱い眼差しを見ればすぐ分かる。
けど、あまりにも突然過ぎて、まだ心の準備が出来ていない。
でも、この瞬間はずっと待ち望んでいたもので。
唐突にそれが訪れたことに戸惑いを隠せないけど、徐々に彼の熱に溺れていく私は、同じように視線を逸らすことなく澤村さんの透き通った瞳をじっと見つめた。
「椎名さん、好きです。出来ることならこのまま帰したくない」
そして、ついに聞けた彼の本心。
ただ、それは思っていた以上に刺激的で一瞬驚いてしまったけど、その気持ちをしっかりと受け止める為に私はゆっくりと頷く。
「私も澤村さんが大好きです。なので、どうぞ好きにして下さい」
かく言う自分も、なんて大胆な発言をしてしまったのだろうと後になって恥ずかしさが込み上がって来るけど、この甘い雰囲気であればもう何を言っても許される気がした。
それから暫く無言のまま見つめ合う私達。
相変わらず彼の目力は強く、一度捉えられると逸らす事が出来ない。
そんな経験は幾度となく味わってきたけど、今程にこの瞳が愛しいと思ったことはないかもしれない。
そう心の中で呟いた途端、不意に彼の口元が緩み出し、それを合図に突如唇が塞がれ、そこから熱いキスが何度も何度も降って来る。
普段はとても冷静なのに、今の彼はこれまでに見た事がないくらい情熱的で、野生的に私を求めてきて。こんな一面もあるなんて知らなかった。
再び見つける事が出来た新たな姿に喜びと幸せで心が満たされながら、私も負けないようにと自分の気持ちを精一杯彼の前で表す。
それから、お互いの愛を確かめ合っているうちにドラマの時間はゆうに過ぎていて、そんな事は頭からすっかり抜け落ちる程に、私はこれまでにないくらいの甘い夜を彼と過ごしたのだった。