白い嘘と黒い真実
「そりゃそうだろ。まさか、そんな重い話があの場で出るなんて誰も思っちゃいねーよ。とりあえず、お前は俺が受け持った生徒の中でも一番優秀だったからな。そのうち、また本部に戻されるだろ」

……そうなんだ。

と、一人頷きながら、私は頭の中で、聞いた話から得た澤村さんの情報を次々と整理していく。


澤村さんは優秀な警察官であり、過去に父親が詐欺に遭って自殺してしまった。そんなお父さんと私はタイプが似ている。
だから、澤村さんは私を見るとイライラする。

それってつまり……。

「とにかく隣人になったんだし、あまり椎名真子にあたるなよ。お前って超クールなくせに割と感情面に出やすいよな」

「悪かったな。あの人を見ると父親の顔が頭に浮かぶんだよ。……とりあえず、努力する」  

若い男性と澤村さんの会話でようやく全てが繋がった私は、今更ながらにこれ以上会話を聞くのも失礼な気がして、抜き足差し足で部屋の中へと戻っていく。

それから、気付かれないように窓をゆっくり閉めると、肩の力が一気に抜け落ち、その場に座り込んでしまった。

思わぬ所で知る事が出来た、澤村さんが私を拒絶する理由。

まさか、私にお父さんを重ねていただなんて……。

詐欺に遭って自殺……。
一体いつ頃の話なのかは分からないけど、きっとそれで澤村さんの家は苦労したのかもしれない。

だから、そんなお父さんが憎い。
タイプが似ているというだけで、私を避けてしまう程に。


「……はあ〜」

ようやく謎は解明したけど、結局澤村さんとの親交は難しいという事実は変わらないので、自然と大きな溜息が漏れてしまう。

けど、よくよく考えてみれば拒絶されるのはお父さんの存在があるからで、別に私自身を嫌っているわけではないのかもしれない。

それならば、まだ少しは希望があったりするのかな……。

とりあえず、機会を伺って、今度昔の話をしてみてもいいかもしれない。

そう思った途端、暗闇に一筋の光が差し込んでくるような感覚を覚え、気持ちが段々と上昇していく。

そして、今後の澤村さんとの付き合い方について、もう少し踏み込んでみようと。私は軽く気合を入れて小さく拳を握ったのだった。
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