白い嘘と黒い真実
◇◇◇
__翌朝。
「おはようございます!」
久しぶりに澤村さんと出勤時間が被り、ほぼ同時のタイミングで部屋から出てきた彼に向かって、私は笑顔で挨拶する。
「………………おはようございます」
しかし、そんな溌剌とした私とは裏腹に、澤村さんはげんなりとした表情でこちらを一瞥すると、小声で呟くように挨拶を返してから直ぐに視線を外してしまった。
何やら機嫌が悪いというよりは、体調が悪そうな様子に、私は昨日のことがふと頭をよぎる。
「もしかして、二日酔いですか?」
あれから、夜遅くまで隣の部屋から笑い声が聞こえていたので、おそらく相当飲んでいたのかもしれない。
それで次の日仕事だなんて、なかなかの荒業に私は少し呆れた目を彼に向けた。
「……飲まされたんです。昨日は遅くまで騒いですみませんでした」
そう言うと、いつもの凛とした態度とは違い、申し訳なさそうに弱々しく頭を下げてくる姿が何だか可愛らしく思え、少しだけ萌えた。
「いえ、お構いなく。……っあ、ちょっと待ってください」
それから、前に実家から送られてきたある物の存在を思い出した私は、慌てて部屋の中へ戻ると、冷蔵庫に保管している小さな瓶を持ち出す。
「あの、これ。うちの田舎オリジナル栄養ドリンクで、二日酔いにかなり効くんですよ」
そして、満面の笑みでゴールド色の小瓶を差し出すと、澤村さんは暫くそれをじっと見つめた後、徐に手を伸ばして受け取る。
「……椎名さんは新潟出身なんですね」
表面にはでかでかと新潟限定という文字が強調されているので、一目で産地が分かる代物に私は少しだけ気恥しくなった。
「はい。魚沼の山奥の方です。食べ物は凄く美味しいんですけど、それ以外は何もなくて……」
そのままの流れで出身の説明をしている最中、はたと私はある事に気付く。
これは、あの頃の話が出来る絶好のチャンスでは!?
丁度田舎の話が出てきたし、こんな機会もそうそうない気がして、私は逸る気持ちを抑える為、胸を抑える。
「あ、あの。澤村さんって……」
「ご親切にありがとうございました」
それから勇気を振り絞って、更に踏み込もうとした時、まるで会話を遮るように澤村さんは無表情でお礼を言うと、踵を返してさっさと階段の方へ行ってしまった。
………終わった……。
せっかく希望の扉が開きかけてきたのに、強制的にそれを閉じられてしまい、途方に暮れる私は口を開いたままその場で固まる。
過去の話に触れるにはまたとない機会だったのに、これでダメなら一体いつ話せばいいのだろうか……。
もしかしたら、二日酔いのせいで会話は避けたのかもしれないけど、あからさまに拒絶反応を見せられると、やっぱりショックが大きい。
……まあ、今に始まった事ではないけど。
結局はそこに行き着いてしまう結果となり、私は肩が一気に重くなるのを感じながら、大きな溜息を吐いて自宅を後にする。
__翌朝。
「おはようございます!」
久しぶりに澤村さんと出勤時間が被り、ほぼ同時のタイミングで部屋から出てきた彼に向かって、私は笑顔で挨拶する。
「………………おはようございます」
しかし、そんな溌剌とした私とは裏腹に、澤村さんはげんなりとした表情でこちらを一瞥すると、小声で呟くように挨拶を返してから直ぐに視線を外してしまった。
何やら機嫌が悪いというよりは、体調が悪そうな様子に、私は昨日のことがふと頭をよぎる。
「もしかして、二日酔いですか?」
あれから、夜遅くまで隣の部屋から笑い声が聞こえていたので、おそらく相当飲んでいたのかもしれない。
それで次の日仕事だなんて、なかなかの荒業に私は少し呆れた目を彼に向けた。
「……飲まされたんです。昨日は遅くまで騒いですみませんでした」
そう言うと、いつもの凛とした態度とは違い、申し訳なさそうに弱々しく頭を下げてくる姿が何だか可愛らしく思え、少しだけ萌えた。
「いえ、お構いなく。……っあ、ちょっと待ってください」
それから、前に実家から送られてきたある物の存在を思い出した私は、慌てて部屋の中へ戻ると、冷蔵庫に保管している小さな瓶を持ち出す。
「あの、これ。うちの田舎オリジナル栄養ドリンクで、二日酔いにかなり効くんですよ」
そして、満面の笑みでゴールド色の小瓶を差し出すと、澤村さんは暫くそれをじっと見つめた後、徐に手を伸ばして受け取る。
「……椎名さんは新潟出身なんですね」
表面にはでかでかと新潟限定という文字が強調されているので、一目で産地が分かる代物に私は少しだけ気恥しくなった。
「はい。魚沼の山奥の方です。食べ物は凄く美味しいんですけど、それ以外は何もなくて……」
そのままの流れで出身の説明をしている最中、はたと私はある事に気付く。
これは、あの頃の話が出来る絶好のチャンスでは!?
丁度田舎の話が出てきたし、こんな機会もそうそうない気がして、私は逸る気持ちを抑える為、胸を抑える。
「あ、あの。澤村さんって……」
「ご親切にありがとうございました」
それから勇気を振り絞って、更に踏み込もうとした時、まるで会話を遮るように澤村さんは無表情でお礼を言うと、踵を返してさっさと階段の方へ行ってしまった。
………終わった……。
せっかく希望の扉が開きかけてきたのに、強制的にそれを閉じられてしまい、途方に暮れる私は口を開いたままその場で固まる。
過去の話に触れるにはまたとない機会だったのに、これでダメなら一体いつ話せばいいのだろうか……。
もしかしたら、二日酔いのせいで会話は避けたのかもしれないけど、あからさまに拒絶反応を見せられると、やっぱりショックが大きい。
……まあ、今に始まった事ではないけど。
結局はそこに行き着いてしまう結果となり、私は肩が一気に重くなるのを感じながら、大きな溜息を吐いて自宅を後にする。